『流魂街での事件を解決してきて下さい』
ここ最近、奇怪な事件が流魂街で多発しているらしい。
殺生自体は、どこにあっても可笑しくはない。
しかし、この件に関しては、明らかに霊力をもつ者だけを狙っていた。
将来、死神になれるかもしれない人材を失うのを瀞霊廷が危惧して、上の連中が零番隊に調査を任せた。
いくら、山じいの命令だからって、面倒だ。
まだ一人だったら、楽だったかもしれないのに。
どうして、砕蜂隊長も一緒の任務なんだよ。
「まさか、ややこしい話じゃねえだろうな」
「そのまさかの可能性が高いから、私達が調査するのだろう」
流魂街を共に歩いている隊長が答える。
その顔は仏頂面だった。
「機嫌、悪そうですね」
「誰のせいだと思っている」
人の目を気にしてるのか、隊長は早歩き。
俺はそれに慌てることもなく合わせた。
「流魂街に入る時は、そういう格好した方が目立たないでしょう」
「十分に目立っている」
「ここだけですよ」
そう、俺も彼女も今はボロボロの服を着ている。
まだ裕福な家が多い区域では、目立つかもしれない。
だが、俺の向かいたい場所はそんな所ではなかった。
「それで、どこに行くつもりだ」
「あれ、言ってませんでしたっけ。75地区ですよ」
予想もしていなかった地区だったのか、彼女は一度足を止める。
しかし、すぐに歩き始めた。
「事件は、70辺りのはずだが」
「情報収集するんですよ、そこで」
目的地に到着して俺は、近くで地べたに座り込む男に声をかけた。
「『台風の目』が来たって伝えてくれ」
その言葉を聞いた途端、男は慌ただしく走り去る。
砕蜂隊長は黙ってそれを見届けた。
訝しげな彼女が口を開こうとした時、男が帰ってきた。
俺は彼女に笑って男についていくことしか出来なかった。
「ああ、その話。色々と厄介な事件ね」
丁重にもてなしてくれた後、本題に入る。
この辺りを仕切っている男は、簡単に情報をくれた。
「実は、そこそこ名の知れた富豪の機嫌も上々らしい」
「普段は違うっていうのか?」
「生まれてから最近まで、怒鳴ってる姿以外に見たことない」
ガキの頃から怒りっぽいとは、よく血管が切れて死ななかったな。
相手の大げさな表現に乗って言ってみれば、相手は笑った。
「確かに。だが、残念ながら、これ以上は何の情報もない」
珍しい。
俺が一番信用のおける情報網をもってすら、ネタがないとは。
根本的に証拠とか全てを消し去っている大きな力でも存在しているのかもしれない。
行き詰った俺は、隊長に意見を求めた。
「さて、どうします?」
聞いてみても、返事がこない。
もう一度繰り返すと、隊長は意識が飛んでたのか、我に返ったようだ。
「あ、ああ、すまない。が真面目に仕事しているのが意外でな」
「日頃の行いのせいですか」
「それ以外に何がある」
酷い言われようだ。
これでも、ちゃんとやらなければならない仕事はしているというのに。
この会話がきっかけか、男は訊ねてきた。
「失礼だが、こちらの女性は?」
「おっと、紹介してなかったっけ。砕蜂さんは今の俺の仲間。砕蜂さん、こっちは俺の昔の仲間・・・です」
仲間じゃなくて、子分みたいなもんだったが。
そこまで彼女が知る必要は無いだろう。
「馴れ合うつもりはない。情報を集めたなら、もう帰るぞ」
こっちが止める前に、隊長は出て行った。
多分、この部屋に充満する匂いに耐えられなくなったんじゃないかと思う。
俺も慣れてるから、いられるだけだからな。
「外野がいなくなったんなら、本当のことを話しますよ」
砕蜂隊長の前では気を遣って、敬語をやめてくれてた男が土下座した。
俺も態度が昔のように戻る。
「すんません、まだ一つ・・・というより、事件を起こしてる犯人が誰かを言ってません」
「それを隠してたってーことは、俺に関連するんだな?」
「はぁ、貴方が覚えてる奴かは分かりませんが」
その犯人の名前を聞かされたが、誰だか思い出せない。
よっぽど弱い奴か、印象が薄い奴なんだろう。
「この件は俺のせいってことか。大方、俺を引きずり出そうとして、てとこか」
「貴方のせいだなんて!悪いのは、あっちですよ!犯人はアイツなんですから」
「どうにも分からねえんだけどよ。その富豪が協力する理由は?」
「それも・・・あいつと一緒かと」
「腹いせだけで、罪のねえ人を殺せるたぁ、立派なもんだ」
それだけ聞けば、十分だ。
俺は立ち上がる。
「あ、あの、動機の細かい説明は・・・」
「いらねーよ、俺の知ったこっちゃねえし。その富豪の名前さえ分かれば良いだろ」
外に出れば、ご機嫌ななめな砕蜂隊長が待っている。
「何に時間をかけていた」
「いえ、さっきの富豪の名前を聞くのを忘れてたので聞いてただけですよ」
「・・・そうか」
何か俺に対して言いたいことがありそうだったのに、彼女は先に歩きだす。
そんなにこの場所にいるのが耐えられないかと考えていた時、隊長は俺に振り返った。
「私の名を呼んでみろ」
「砕蜂隊長、急にどうしたんですか?」
「・・・止めろ」
「は?」
今度は、何で怒っているのか、俺にも分からない。
「も同じ隊長クラスだ。敬語などなくても、怒りはしない」
それが怒らない理由になるかは置いといて、彼女は俺と仲良くなりたいと思ってるらしい。
うん、この事件、個人的に得るものはあったな。
「なら、砕蜂って呼んでもいいんだな?」
「勝手にしろ」
「勝手にする」
その後、砕蜂によれば、事件に絡んでいた富豪の息子は真央霊術院に入れなかった情報を掴んだ。
恐らく、その腹いせにチンピラに霊力のある奴を殺させていたんだろう、ということで事件は解決した。
俺とそのチンピラの関係は明らかになってないようで、俺の過去を他人に知らされる心配はなかった。
-back stage-
管理:これの目的は、砕蜂との距離を縮めさせる為。
砕蜂:何か事件を起こしたのなら、それを解決させようとするのが本来の・・・
管理:ああ、いいの、いいの。だって、彼はそこまでヤル気を出さない人だから。
砕蜂:それで全て事が済むとでも思ってるのか。
管理:思っちゃいないけど、本格的な事件を書いたら、短編じゃなくなるべ。
砕蜂:逃げるな!せめて、もっと女キャラと絡ませる努力ぐらいはしろ!
管理:はーい。
2008.01.21
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