「おーい、君。これ、食べない?」
京楽隊長は、そう言って俺に饅頭を差し出してきた。
気をつけよ!
「饅頭は、あまり好まないんですが」
屋根の上まで呼び出されたかと思えば、そんな事。
寝そべる隊長を構う気もせず、冷たく言い放った。
「そんな冷たい事言わないでさ。食べてみてよ、美味しいんだから」
「隊長からもらう物は、全て疑った方が良いですから」
「酷いなぁ。そういう君には・・・」
突然腕を引っ張られたかと思えば、開けてしまった口に隊長は饅頭を押し込めた。
苦しくて吐き出そうとしても、隊長は口を押さえて、それを許さない。
俺は、嫌々飲み込むしかなかった。
「いきなり何すんだよ!」
「ははは。敬語を忘れてるよ、君?」
「どうせ、仕事の時だけに使うんだから、構わねぇだろ?あ?」
胸倉を掴んで、思い切り睨みつける。
確かに、俺は京楽の部下ではあるが。その前に、飲み仲間でもある。
俺が京楽より年下でも、気軽に話しかけることは普通のことになっていた。
「いいのかなぁ。僕にそんな口、聞いて?」
ニヤリと口元を歪ませた京楽に、悪寒が走る。
「さっきの饅頭に、何しやがった?」
「ちょうど媚薬が手に入ってね」
恐る恐る聞いた質問に、こいつは明るく答えた。
媚薬?今、媚薬って言ったか?
この無理矢理食べさせられた饅頭に、媚薬が入っていたと?
「どこから手に入れたんだ?」
「それ聞いて、どうするの」
「そいつを殺る」
大方、誰だか予想はつくがな。
飲み仲間の数人を頭に浮かべていると、京楽は口を挟んだ。
「ちなみに、それ即効性だから、もうそろそろ効き目がでると思うんだ」
「は?」
とりあえず、今日は仕事が手につけそうにないから、とっとと帰ろうとした矢先。
運が悪いことに、京楽を探していた七緒が現れた。
「隊長!さんまでサボらせて、何をやってるんですか」
「七緒ちゃん、七緒ちゃん。その君が、大ピンチなんだ」
大ピンチ、てお前が言うな!
しかもその割には楽しそうな声だぞ!
今の俺は、危険だ。
そう思って懸命に七緒を見ようとしないでいたが、七緒は構わず俺に近づいてきた。
「どうしたんですか、さん。また何か隊長が?」
「あ、ああ。それで、具合悪くなったから、早退しても良いかな?」
何とか七緒の姿を視界に捉えずに、会話をした。
七緒も、それが体調が悪いからだと思ってくれて、早退の許可を出してくれた。
ホッとしたのも束の間。
去っていく七緒の後姿を見て、全身が熱くなった。
彼女のわずかに見えるうなじに反応してしまった。
ちょっと待て。
媚薬だからって、そんな細かい所に反応するか!?
絶対に他の薬も混ざってる気がする。
だけど、どうしてもこのモヤモヤが解消できなくて。
堪らず、七緒を後ろから抱きしめた。
「さん?ど、どうしたんですか?」
俺の顔を覗こうとして顔をあげた七緒に、俺は目をやらない。
逆に首筋に顔を埋めて、軽く噛みついた。
身じろぎをする七緒を無視して、帯に手を伸ばし・・・
「何をしてるんですか!!」
・・・そうになった俺を、七緒が手にしていた冊子で俺の頭を殴った。
「君、すっかり理性に負けちゃってるねぇ」
愉快そうに倒れた俺を見つめる京楽は、そう言い残すと何処かへ行った七緒の後を追った。
今日は、帰ろう。
とにかく、早く部屋に閉じこもって、誰とも会わないでおこう。
そんな事を心の中で誓った途端、乱菊と出くわした。
ヤバイ。遠くから姿を見かけただけで、そのでかい胸にあそこが騒ぎ始めてきた。
「聞いたわよ、。媚薬飲まされたんだって?」
乱菊の姿を見ないように目を瞑ってる間、ずっと俺の腕に胸を押し当ててくる。
ていうか、その話を知っているなら、俺で遊ぶな!
「そうだよ、だから離せ」
「えー、何で。を私のモノにするチャンスじゃない」
「頼むから、離してくれ」
きちんと身なりを整えていた七緒に対してですら、理性を抑えられなかったんだ。
乱菊では、確実に襲ってしまう。
腕から乱菊の胸の感触が無くなったかと思えば、彼女の手は俺の頬に添えられていた。
何をするのかと考えていると、唇が重ねられた。
驚いて目を見開いてしまって、後悔してしまった。
「やっと目を開けたわね」
不敵な笑みを浮かべる彼女の顔よりも、その下にある胸元に目がいく。
俺の体に密着させて動く、その柔らかそうな胸を見て、理性なんて簡単に飛んでしまった。
すぐさま乱菊の服を脱がそうとしたが、彼女は諫めると、目線を横に移した。
同じ方向を見ると、誰も寄ってこなさそうな物置部屋がある。
彼女の意を捉え、頷けば、乱菊は俺の手を引いて部屋へと連れ込んだ。
「待て、!」
「君、早まっちゃ駄目!」
一緒に部屋に入り込んできたのは、ルキアと桃だった。
二人の姿は髪がグチャグチャになっている程、ひどい格好だ。
「京楽隊長から、話を聞いたの」
「松本副隊長なんかの誘いに、乗ってはならん!」
どうやら、京楽から事情を知った二人は、俺の事を思って走って探してくれたらしい。
「欲望に任せて、誰彼構わず襲うような人じゃないでしょ!」
「そうだ、。負けてはならぬ」
二人が、俺の為に言ってくれた言葉は心にしみる。
俺の事を理解してくれている奴はいるもんだな、と感動した。
「だけど」
「だが」
様子を見ていただけの乱菊を退けると、桃もルキアも俺を押し倒した。
「どうしても我慢ができないって言うなら」
「私で、欲望を満たしてくれ」
すでに、俺の体は、誰であっても、行為を受け入れられる状態。
頬を赤くし、潤った瞳で美少女二人に見つめられて、誰がヤらないと言うだろう。
この気持ちを抑えることができなかった俺は、片手ずつでそれぞれの帯を解いた。
さすがに乱菊が黙っていないだろうか、と気になってみたら、また誰かが部屋に入ってきた。
・・・おい。この部屋に、何でそんなに人が来るんだ?
ルキアと桃に覆いかぶされてるから、誰が入ってきたかが分からない。
だが、それは本人が口を聞いてきた事から判断できた。
「何をやっている」
「砕蜂隊長。どうして、ここに?」
「見て分からない?を皆で襲ってるのよ」
「申し訳ありませんが、ここは下がってもらえますか」
上から桃、乱菊、ルキアの順で、砕蜂に応じた。
『皆で襲ってる』という言葉を素直に受け止められなかったが、実際にそうだから何も言えない。
「襲うとな。それは、私の得意分野だ。参加しよう」
ちょっと待て、砕蜂!
お前の考えてる『襲う』って、確実に乱菊の言う『襲う』と意味が違うだろ。
桃とルキアの服が脱げていることから、余程激しい戦いだと勘違いしたのか。
砕蜂は、わざわざ死覇装の袖までも破り捨てて体勢を整えた。
「砕蜂、待て。お前は、参加するな」
何故だ、と迫ってくる砕蜂に、俺は目を合わせないようにした。
でないと、その小さいながらも膨らんだ胸が微かに見えるんだよ!
さっきから、理性を失ったり戻ったりして、苛々してきた。
だが、何時の間にか、誰が俺の相手をするかを言い争ってる女達を待ってる自分がいた。
待てよ?
俺は、最初から誰かとヤりたいとは思ってなかったはず。
帰って、誰にも会わずに薬の効果が切れるのを待とうとしたはずだ。
その事を思い出した俺は、そっと物置部屋から忍び出た。
何とか、誘惑から逃れることが出来たと安心したが、まだ何かありそうな予感が。
「こんにちは、さん」
ああ、忘れてたな。
白く細長い脚を見せたネムが、声をかけてきた。
「ネム。悪いけど、今の俺は・・・」
「伺っております」
彼女の顔も見れずに言い訳を述べようとすると、それは遮られた。
それには安堵したが、さっきの襲われる出来事もあった後だ。
いや、ネムに限ってそんな事をするとは、思えないが。
まさか、このまま捕まってしまうかと不安になった。
「大変な思いをされているだろうとマユリ様もお気遣いになってます」
「そ、そう。なんでまた、あの人が?」
そこであの人の名が出てくるってことは・・・
嗚呼、どうか俺の嫌な予感が当たりませんように。
「何でも、マユリ様が開発した新しい薬が、解毒になるのではないかと申してまして」
「うん。それは、どこからつっこめば良いんだか」
『開発』とか『新しい薬』とか『解毒』とか。
不安要素たっぷりなうえに、最後は言葉を選び間違えてないか?
「それで、是非、さんにと」
「要らない」
「遠慮せずとも、大丈夫です。さぁ、こちらへ」
男が女に力で負けるって、どうよ?
ネムに掴まれている左手首が痛い。
そのまま十二番隊へ連れて行かれた俺は、変な薬のおかげで三日寝込むことになった。
-------おまけ。
「や、やぁ、君。元気そうだね」
「ええ、おかげで良くなりました」
「そうか、そりゃ良かった。じゃあ、僕は仕事があるから、これで・・・あ、あれ?」
「あれ?どうしました、隊長?体が動かないようですが」
「、くん・・・い、一体何を・・・」
「朝御飯、僕が作ったのを送ったんですけど。美味しかったですか?」
「!!!!!!!!!」
そのあと、京楽隊長がどうなったか、なんて事を聞く人は、誰もいない・・・
-back stage-
管:え、と・・・ごめんなさい!
ル:謝るだけで、済むと思うのか。
乱:そりゃ、オチを誰にするのか迷って逃げたのは、分かるけど。
桃:このオチは・・・君が可哀相過ぎるよ。
管:はぅぅ。微エロで進めることが不可能になったんだもん。
七:ですが、京楽隊長との絡みが多すぎません?
管:ご、ごめんなさぁぁぁい!
皆:(あ、逃げた)
2006.02.23
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