「いい加減、機嫌直せよ」
あれから一週間ぶりに出会えた桃は、相変わらず機嫌が悪かった。
消毒
「何、君。私、忙しいんだけど」
顔は笑っているけど、怒っていることは明白だ。
他人行儀で話し掛けられたら、誰だって分かる。
廊下で引き止めたのはいいけど、これじゃ話が出来そうに無い。
どうしたものかと笑顔のまま固まっていると、反対側から乱菊の姿が近づいてきた。
・・・こいつに協力してもらおう。
「おい、乱菊。助けろ」
「それが人に物を頼む態度かしら」
「今更、関係ないだろ」
全く、こいつは扱いにくいったらありゃしない。
付き合いは短いとはいえ、そんな気を遣い合う仲じゃないってのに。
「で、何の用よ、?」
「それがさ・・・」
乱菊に今の状況を説明しようと口を開くと、突然腹に衝撃を感じた。
「君の馬鹿!」
どうやら、桃が俺の腹を思いっきり斬ぱく刀の柄で刺したようだ。
おかげで、叫びながら去っていった桃を追いかけることができない。
「ほんと、馬鹿ね」
おまけに乱菊からの慰めようともしない言葉に傷ついて、また気分が落ち込んだ。
それから、また2週間ほどが経った。
あーあ。せっかく、桃と両思いになれたと思ったのに。
全然会ってねぇ。
桃の事が気になって、仕事も手につかない。
いや、一応仕事はしてるけど。
ここ最近、手ごわい虚が出現しているのか、かなりの人数が病院に運び込まれる。
だから手を休めることはないが、考えているのは桃のことのみ。
そもそも、なぜ桃が怒っているのかすら分からないのだ。
疲れてしばらく机に伏せていると、また病院内が騒がしくなってきた。
一体何があったのかと除いてみると、数十名の負傷者が一気に運び込まれたようだ。
「どうしたんだ、これ」
「たった今、虚退治に行って負傷した隊員が入ってきたんですよ」
「またか。俺、女専門でよろしく」
「聞き入れませんよ。それより、今消毒液が足りない状態なんで、よろしく」
・・・最近、四番隊隊員も俺のあしらい方が荒くなった気がする。
てか、治療部隊として消毒液が無いって可笑しいだろ。
本当に男をこっちに回されて、うんざりしながら治療を進める。
結果的に消毒液が無くなっても、たまってた薬草を使って補えた。
「もう野郎はいらねぇ・・・」
治療し終えた俺は、思わず呟いてしまう。
「なぁ、薬草もう無いんだけど」
「何処も、もう無いですよ。幸い、治療しなきゃならない状況の隊員はもう居ないみたいですけど」
よっしゃ!これで、男から離れられるな。
背もたれの無い椅子に座っているから、腰が痛い。
背中を伸ばしていると、卯ノ花隊長から声を掛けられた。
「貴方に診てもらいたい患者がいるのですが、通してもよろしいですか?」
「もちろんですよ」
さすがにこの人を下の名前で呼ぶには度胸がいると思う。
然程抵抗もせずに、彼女の要望を聞き入れた。
だが、患者の方が嫌がっているようだ。
「卯ノ花隊長、別に見てもらう必要なんて・・・」
「見てもらってください。貴女が倒れたら、他の隊員にも迷惑がかかってしまいます」
うーん。やっぱ、この人は優しい顔してキツイ事言うな。
逆らわないのが懸命だ。
一体誰が診察を嫌がっているのかと思えば、目の前に現れたのは桃だった。
彼女の頬に一筋の切り傷があるところから見ると、虚退治に付き添ったようだ。
「あれ。お前も虚退治に出かけてたのか」
何事もなかったかのように話し掛けても、無言のまま。
そんな桃を隊長に任されて、とりあえずベッドの上に座らせた。
俺は彼女の前に椅子を引っ張って、そこに座る。
「よっぽどすごい虚だったんだな。怪我人が多い、多い」
相変わらず、無反応。
「お前は大丈夫なのか?」
診たところ、軽傷で済んでるようだ。
それでも、桃は口を開こうとしない。
ちょっと意地悪をしようと、怪我しているであろう右腕を強く握った。
「いっ・・・ちょっと、何するの」
反応が返ってきて、助かった。
ずっと重々しい空気にいなきゃならないかと思ったよ。
「声が出せるなら、出せ。そんでもって、治療させろ」
とは言っても、今は消毒液がない。
袖をめくり上げると、血は多少出ていたが酷いものではなかった。
桃が嫌がることを承知で、俺は傷口を丁寧に舐める。
「ひゃあ!?」
「悪いな。消毒ができないから、これで我慢しろ」
さて、他はどこを怪我しているのか。
真っ赤になって右腕を隠している桃の反応を見て、楽しくなってきた。
「い、いい!もう、いいから!」
「まだ怪我してる所あるだろ。駄目だ」
「じ、自分でやるから!」
「ここは、自分で出来ないだろ」
今度は桃の頬を舐める。
「ほら、次は?」
「・・・君、怒ってるの?」
怒ってるか怒ってないか、で判断するなら怒ってる。
理由も述べずに拒否されてた気持ちが桃に分かるとは思えない。
「次は?」
どうせ言わなくたって、俺は簡単に見つけられるけど。
「もうこれで良いよ。ありがとう」
「はい、不正解」
立ち上がろうとする桃を押し倒し、彼女の太腿が現れるように死覇装をめくった。
「ここも怪我してる」
戸惑いもなく桃の内股を舐めると、突然の刺激に驚いたのか、鳥肌がたつ。
「ちょ、君!?」
「何?」
「何って・・・何してるの!」
涙目で叫ぶ桃を無視して、俺はまたその部分を舐める。
「治療」
「公私混同じゃない」
「あれ、いつ俺が欲求不満だなんて言った?」
そう言うと、桃は黙るしかなかった。
ま、襲いたい気持ちはあるけど。
ここは人が来るから我慢してるだけの話だったりするから、桃の言う通りだ。
「桃の方が欲求不満なんじゃないの?」
「そんなわけないでしょ!」
「つれないなぁ。桃が言うなら、今この場でやってもいいんだけど」
「やらなくていい!」
きっと、この会話は周りに聞かれてるんだろうなと頭の片隅で思いながらも、からかうのを止められない。
怒ったのか照れたのか、桃は乱れた死覇装を直すと帰っていく。
とりあえず、また会いに行くと声をかけると、こっちを向いた。
「今晩、待ってるから」
恐らく、今の俺の顔は桃をからかう事ができないほどに赤く染まってるだろう。
-back stage-
管:「呼び名」の続き物です。
桃:な、なんて大胆な事言ってるの、あたし!
管:ふふふ。言わせちゃいましたよ、旦那!
桃:こ、この続きは書くとか言わないでよ!
管:それは書けるかどうかの問題より、皆さんが求めるかどうかの問題さ。
桃:えぇー!?
2005.09.20
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