松本副隊長に強制的に飲み会へ連れて行かれるのは、毎度のことだ。
何故なら、彼女はいつも俺に抵抗させない呪文を口にするから。


 『五番隊副隊長の彼女も呼んでるんだけどねえ』


あえて名前を出さないところが、故意であるのを証明してる。
だから、これはこの宴会にいた。


明日は非番なやつも、そうでないやつも大暴れ。
さすがに、そこに加わる気はなくて、部屋の隅で飲んでいた。


 「君、飲んでるぅ?」


柔らかそうな頬を赤くした雛森が、俺の前に現れる。
喋り方といい、隣に座り込むまでの動作といい。
こいつも、完璧に酔っていた。


 「もっと、飲まなきゃダメぇ」


雛森が俺に酒を注いでくる。
悪酔いしないように、少しずつ飲むと、彼女は怒った顔を近づかせてきた。


 「もっと一気に飲まなきゃダメでしょ」


普段、何を考えてるのか分からないとか言われる俺の顔も赤いと言われることだろう。
こんな至近距離で雛森と見つめあうことは初めてだ。


一気飲みをする様子のない俺に苛立ったのか、さらに雛森は顔を近づかせる。
これ以上は目を開けていられなくて、誰かに助けてもらいたい思いで目を瞑った。
すると、唇に何か柔らかいものが触れる。
もしや、と思って俺が目を開けると、雛森は笑って言った。


 「一気しない罰だよ」


酔っ払いすぎだ。
好き勝手にしたかと思えば、雛森は眠ってしまった。














 「おはよう、君!今日も頑張ろうね」


明るい声で挨拶する目の前の人物に驚く。
こっちは、まだ心の準備ができていなかった。


 「あ、ああ。元気、そうだな」


昨夜の出来事を目ざとくも見ていた松本副隊長が冷やかしてきたばかりだということもある。
恥ずかしくて、目があわせられなかった。


 「元気じゃないよ。昨日は飲みすぎちゃったから、ちょっと頭が痛くて」


自分が酔っていたことは覚えてるんだろうか。


 「なんか、あたし、暴れたような気もするんだけど、あまり記憶がなくって」


覚えてないということか。
そりゃ、覚えてないから、普通に接してくるんだろうけど。
それも、また困る。


教えるべきなのか、秘密にするべきなのか。
迷ってると、雛森が近寄ってきた。


 「どうかしたの?ぼーっとしてるみたいだけど」

 「や、なんでもない。なんでもないから、離れてくれないか。そ、そう、俺、今風邪ひいててさ」


何をするか分からないが、今の俺に近づかないで欲しかった。
何だよ、これ。
昨夜、ちょっとだけ・・・いや、かなり、幸運だとか思った罰か?


 「君、本当に大丈夫?いつもと様子が違うよ?」


誰のせいだ、と言いたくても言えない。
目を逸らすと、雛森は謝ってきた。


 「あたしのせい、だよね」

 「へ?」


昨日のこと、覚えてる?
それでも、接してきてくれるというのは、俺に望みがあるということか。
期待で胸が高まる。


 「昨日の疲れが溜まってるのに、あたしが話しかけたから機嫌悪くなってるんだよね」


絶句。
間違っては、いない。
いないが・・・



 「覚えてろ!…や、待った覚えて無くていい」



覚えていられていても、恥ずかしいのは変わらない。
ならばせめて、お互いの関係が崩れないことを願うしかないな。


 「・・・やっぱり、迷惑、だった?」


赤くなった雛森が、俺を見る。


 「そ、そうだよね、好きな人でもない人と、ああいうのしたくないよね」

 「ちょ、ちょっと待て。つまり、お前は昨日のことを覚えてるのか?」


確認してみれば、雛森は小さく頷く。



・・・俺は、どうすればいいんだ?












-back stage-

管理:あえて結末をつけない終わり方にしました。
雛森:それって、余計に気になるだけじゃ・・・
管理:だって、君にずっと振り回されて混乱しきってるのに、告白まで簡単にできないっしょ。
雛森:少し現実に触れた解釈をしてるんだね。
管理:まあ、夢を見すぎるのも問題よ、受け入れられない矛盾があるから。
雛森:・・・この作品は、章南様のみ返品/持ち帰りができます。

2007.10.15

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