さぁ、今日からまた楽しい学校生活が始まるぞ。
what you want
〜一年の始まり〜
四月。
俺が何年も何年も待ちわびていた日がとうとう来た。
「初日から動きが早いねぇ、お兄ちゃん?」
横で俺の事を茶化す奴がいるが、放っておこう。
こいつは、こういう性格だ。
一年二組の教室へ向かうと、真っ先に目的の人物を探し当てた。
お団子頭が目の前に廊下側を背にして座っている。
廊下から彼女の背後に立つと、周りの女の子が俺に視線を合わせた。
彼女も後ろを振り向く前に、目隠しをして驚かせる。
「誰だと思う?」
子供の戯れだな、と隣で檜佐木がぼやいたが、それも無視しておこう。
俺の可愛い妹はちゃんと返事をしてくれる。
「お兄ちゃんでしょ。分かるに決まってるじゃない」
手を離せば、桃の可愛い笑顔が俺を迎え入れてくれた。
ああ、どれだけ桃との学校生活を待ち望んでいたか。
「大げさだな、お前。たった二年じゃねぇか、学校が同じじゃなかったのは」
ふん。檜佐木が俺の心の叫びにツッコミをいれてきたが、それも関係ない。
今、ここに桃がいるって事が俺にとって大事なことなんだ。
「どうしたの、わざわざ?」
「ああ。弁当忘れた」
しかし、仮にもここは学校。人前だ。
崩れそうになる顔を懸命にこらえて、普通に会話をした。
「だろうと思った。はい、お弁当」
「サンキュ。さすがは桃だな」
「お兄ちゃんの事なら、何でも知ってるもん」
桃のクラスメートがざわめいている。
男も騒いでるってことは、俺が来ておいて正解だったな。
早くも桃に目をつけた輩がいるってことだ。
「あれ、雛森先輩」
見せつけの為にも桃に近づこうとした俺を止めたのは阿散井だった。
同じ学校に来た事は桃から聞いてたが、どうやら桃とはクラスが違うらしい。
だが、俺が気にするのはそこではなかった。
顔を上へ向けるこの体勢が辛い。
「生意気だな、阿散井。俺より伸びやがって」
「はは、先輩を見下ろせますからね」
「そんなんで、サッカーできるのか?」
「あ、それなんすけど。先輩には悪いけど、バスケ部にでも入ろうかと思って」
「おいおい。あんなに俺の背中にへばりついてたのに、あっさりと止められるんだな」
久しぶりの再会で談話をしていれば、何時からいたのか俺の会いたくない顔が目に入った。
こいつ、性格の裏表が激しいから怖いんだよ。
・・・裏表、て意味じゃ俺も人の事言えないけど。
「お久しぶりです、雛森先輩」
「ああ。吉良がここにいる事が不思議に思えてならないけどな」
「そうですか?僕の頭脳なら、ここに入るのは簡単ですよ」
「だからこそ、もっとレベルの高い学校に行けば良かったんじゃないか?」
こんな奴に桃をやれるわけがない。
ここは『兄』として、精一杯戦わせてもらおう。
だが、運悪く予鈴が鳴ってしまったので、俺たちは各クラスに戻ることにした。
俺は桃に弁当の礼を言うと、すばやく桃の頬にキスをした。
背中から黄色い声や嘆く声が聞こえるが、無視だ。
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もう!お兄ちゃんが皆の前でキスなんてするから、目立っちゃったじゃない。
でも、まさか学校でもしてくるとは思わなかったなぁ。
「お主の兄は相変わらずのようだな」
この学校での初めての昼食。
ルキアちゃんと仲良くなった女の子達で食べることにした。
「朽木さんも雛森先輩の事知ってるの?」
「いいなぁ、雛森さんが先輩の妹だなんて」
「ていうことは、檜佐木先輩とも知り合い?」
初めて食べる相手としては、ちょっと選択を誤ったかもしれない。
さっきからずっとお兄ちゃん達の事ばかりで、質問にすら一つずつ答えられない。
「檜佐木先輩は、私も良く知らないの」
「というより、何故お主らがこやつの兄の事を知っておるのだ?」
ルキアちゃんが助け舟を出してくれた。
すると、女の子の一人が思い切り机を叩いた。
「知らないわけないでしょ!この学校に入ったのは、それが目的なんだから!」
彼女を挟んだ他の子たちも力強く頷く。
お兄ちゃんって、何かしたっけ?
「雛森と檜佐木修兵は、この地域じゃ有名よ」
「檜佐木修兵は女に、雛森は男女平等に憧れられている存在なの」
「しかも二人は元生徒会長と副会長!下につきたい人が溢れかえっていたらしいわ」
「当たり前よねぇ。スポーツも勉強もできて、おまけに格好良いもの」
「せめてあと一年、彼らが卒業する前にそのお姿を拝見したかったのよ」
女の子達の熱気についていけないけど、お兄ちゃんてすごかったんだなぁ。
そんなにモテてるなんて聞いたことないけど。
「檜佐木とかいう奴は知らぬが、雛森の兄は無愛想な奴だ。別に格好良くないと思うが」
「そこが良いんじゃない、朽木さんの分からずや!」
「そうよ。二人ともちゃんと親衛隊がいるのよ?」
親衛隊!
そこまでお兄ちゃんモテてたの?
さすが、私のお兄ちゃん。やっぱり格好良いんだね。
自分の事のように嬉しくてたまらない。
「桃。顔がにやけてるぞ」
ルキアちゃんに注意されちゃったけど、授業が始まっても私の頬は緩みっぱなしだった。
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四月の終わり。
俺の耳には嫌でも聞きたくない噂話が入ってくる。
いや、喜ばしいことだ。
俺の桃は間違いなく可愛いということを皆が理解してくれるのは。
しかし、それで俺のライバルが増えるのは腹が立つ。
「雛森〜。お願いだから、妹の桃ちゃん紹介してくれよ」
またどこのどいつか分からない奴が話しかけてくる。
そいつを殴り倒すと、俺は面倒から離れる為保健室へ避難することにした。
「乱菊、サボらせろ」
他の生徒がいない事を確認してから、目の前にあったベッドに倒れこんだ。
仰向けになると、上に乱菊が乗っかってきた。
「オバサン、重い」
「まだオバサンなんて言われる年齢じゃないわよ。」
彼女の長い爪をした指で額にデコピンをされた。
顔は笑っていたが、力の入れ具合からして相当怒っている。
だけど、俺は機嫌とりをする気にはならなかった。
「桃ちゃんて、本当に可愛いわよね」
「会ったのか?」
「健康診断で」
そういや健康診断をサボってたかもしれない。
どうせ後で乱菊に言われるだろうから、あえて何も言わないでおいた。
「がベタ惚れなのも分かる気がする」
「可愛すぎると、疲れることもあるけどな」
「あら、その分イイ男を捕まえれるじゃない」
人事だと思って。
俺は、それが許せないんだよ。
「だからさ、。もう一回アタシと付き合ってみない?」
悪い冗談も程ほどにして欲しい。
それに、俺はもう女で遊ぶ気はない。
「遊ばない」
「違うってば。恋人として付き合うってこと」
「乱菊は好きだけど、愛してない」
「どうしても駄目?」
「真面目な人間に変わったんだ」
どうやって分かったのかを未だに解明してないが。
仮にも血筋を引いた妹を好いてしまった自分に気付いてからは、足を洗った。
これからは、俺が桃に振られない限り独り身でいることを誓ったんだ。
「つまらないわね」
「遊ばれなくて結構」
「でも、そんなも大好きよ」
頬にキスをすると、乱菊はようやく俺の上から離れた。
このまま授業をサボろうかと布団にもぐると、出入り口で面倒な事を伝えられた。
「健康診断。プライベートでしてあげるから、いつでも受けに来て」
今度の再検査には絶対に行っておこう。
-back stage-
管:はぅわ!?一作目ができちゃったよ。
桃:珍しく、話が長いね。
ル:話を上手くまとめる事ができなかっただけだろう。
管:(グサッ)・・・ふ、ふふふ。
桃:あれ、壊れた?
ル:放っておけ。
2006.01.05
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