今年も無事に過ごせて、ラッキーだった。




what you want

〜答え合わせ〜






二月。

今年は、バレンタインが平日なおかげで、朝から学校は異様な雰囲気が漂っている。
この日が来なければ良いと願った者もいれば、喜ぶ者もいる。
俺は、今年も運が良かったから、何も恐れる必要は無かった。


 「なんで、俺はハズレで、ちゃんが当たりなわけ?」

 「八つ当たりで俺の名前をちゃん付けするな」

 「だってよ、こんなイベント、変だろ?生徒会の力をもってすら変えられないってのは」


わざわざ俺の席の前に腰をかけて、檜佐木が愚痴を零す。
それを適当に流しておいた。


このイベント形式を提唱したのは、学校の創立者らしい。
なんでも、チョコは皆平等にもらえない事が嫌だったという話だ。
だから、誰もがこの日にチョコを女子からもらえるよう、校則の一つとして存在している。


やり方は、簡単。
冬休み明けにホームルームで、女子のみが、くじを引く。
その引かれた紙には男子の名前が一人ずつ書いてあって、その人物にチョコを渡すというルールだ。


学年関係なく行われるから、面白いといえば面白いんだが。
女子が全員、料理上手というわけではない。
この一大イベントに無理をしてでも手作りでチョコが用意される事がある。
その事が、男子を不安にさせていた。

しかし、このやり方のおかげで、俺としては助かってる部分はある。
毎年、学校では一人からしかチョコがもらえないのだ。
俺は多くもらっても困るから、これを理由に受け取らずにいられてホッとしている。


そう、こんな風に。


 「おい、雛森ー。客だぞ」


クラスメートに声をかけられてドアまで行くと、見たことのない女子がチョコを持ってやって来ていた。


 「ひ、雛森先輩、おはようございます!」

 「ああ、君が今年の相手?」

 「はい!えと、その、私の手作りなので美味しくないかもしれませんけど、どうぞ!」

 「サンキュ」


チョコを渡すと、その女子が去ろうとする。
その時、俺が断るのを知らない一年らしき女子が同じようにチョコを持ってきた。


 「せ、先輩!ルールとは違いますけど、私のも受け取ってくれませんか!」


顔を真っ赤にしてまでやってくれるのは、構わないんだが。
そんなに欲しいと思わないしな。
帰るタイミングを逃して居続ける女子の方を見てから、答えた。


 「悪いけど、今年はこの子からしか貰わないって決めてるから。彼女の気持ちを台無しにするだろ?」


残念そうに、でも、ますます尊敬される眼差しを送ると二人は去っていった。
今年も檜佐木の助言のおかげで、助かった。
その悪友が、俺の貰ったチョコに手を伸ばして一口食べる。


 「良いよなぁ、お前は。可愛い子から美味しいチョコもらえるんだから」

 「中学の時の地獄を考えたら、ハズレの方が楽だ」


食べかけのチョコを取り上げて、席に戻る。
檜佐木は、特にどうするわけでもなかった。


 「そうか?」

 「女からも男からも持ち帰れそうにない量をもらってたからな」

 「・・・お前の中学、どれだけ飢えてたんだよ、美形に」


美形、ね。
俺には、そんな意識は無いんだが。

よく分からないという顔をしてたのか、檜佐木は厭きれて自分の席へ戻った。







昼休みは、桃やルキア達と約束していたから、檜佐木と屋上へ向かった。
普段は人が多いこの場所も、皆バレンタインで忙しいのか誰もいない。
しばらく待っていると、桃達が姿を現した。


 「ごめんね、お兄ちゃん。待った?」

 「そんなわけ無いだろ」


俺達が一緒に昼を過ごすのは、他でもない。
賭け事の結果を知る為だ。


 「それで、恋次。どうだった、お前のチョコは?」

 「美味かったっすよ。三年の先輩に貰いました」


賭けは、俺の勝ちだな。
悔しそうな顔をする檜佐木から五千円を貰ってから、桃の手作り弁当を食べ始めた。
ついでに、吉良のも聞いておく。


 「僕は朽木さんから市販のチョコを貰いましたよ」

 「値段を明かせば、三百円だ」


義理であることをそこまで強調させたいのか、ルキアが口を挟む。
何だ、面白くもない。
乱菊の予想は外れたか。


 「。貴様は、義理チョコですら受け取らないつもりか?」


ルキアに聞かれたから、仕方なく事情を話す。
処理しきれないほどチョコを貰うことがないようにする為に言ってるだけだと伝えると、何でか喜ばれた。


 「そうか。それなら、私からのも受け取ってはくれないか」

 「まさか、三百円じゃないだろうな」

 「それは吉良だけだ」


さりげに本人の前で傷つくような事、言ってるぞ、ルキア。
吉良は嫌いだが、これには同情してしまう。


 「あたしの分は、家に帰ってからで良い、お兄ちゃん?」

 「そうしてくれると助かる」

 「良かった。今欲しいって言われたら、家にあるって答えるしかなかったよ」


桃が笑顔で答える。
その後は、適当な話をして盛り上がった。








 「はい、これ」


家に帰ると、桃がチョコを差し出して迎えてくれた。
それを受け取って、礼を言う。


 「いつもの手作りチョコか?」

 「今年は、ちょっと違うんだよ」


何が違うのか、包装をといてみれば分かった。
チョコの上にあるメッセージが変わってる。
ハッキリと書かれてると、照れくさいな。


 「ありがと」


それを誤魔化すように桃の唇を奪うと、桃は抱き返してくれた。









-back stage-

管:桃がなんて書いたかは、皆様のご想像にお任せ☆
乱:どうせ、『愛してる』とか『LOVE』とかありきたりな事でしょ。
管:・・・夢を壊すなぁぁ!
桃:それなら、もう少しあたしとお兄ちゃんを絡ませてよ。
ル:全然、進展がないぞ。
管:ど、努力致します。

2007.01.29

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