今日は、長いようで短い一年が終わる日だった。




what you want

〜そして、また新たな一年を迎える〜






三月。

外は、卒業生と最後の挨拶を交わす生徒達の声で賑わっていた。
そこには行かず、保健室に逃げ込んでるのは、俺だけ。


 「、これが初めてじゃないでしょう?」

 「何がだ」

 「卒業式で保健室に逃げ込むの」


乱菊に淹れてもらったほうじ茶を手に外を眺める。
答えない俺の態度を見て、相手はため息をついた。


 「役者になれるんじゃない?全校生徒の前で立ちくらみを演じるなんて」

 「あんな芝居で静かに過ごせるなら、楽なもんだよ」

 「それで、妹さんが心配したらどうするの?」

 「言ってあるから、大丈夫」


そう答えれば、タイミング良く保健室に桃が来た。
その後ろには毎度の如く、ルキアと恋次。そして、吉良がいた。


 「いらっしゃい。三人とも、ほうじ茶で良いかしら?」

 「あ、お構いなく。


結局は受け取ったコップを手にして、それぞれが適当な場所に腰を下ろした。
自分勝手な俺に付き合う事に馴れた後輩が、菓子を提供してくれる。


 「懐かしいっすね。先輩が中学を卒業した時も、こうして食べてましたっけ」

 「なんだ、やっぱり初めてじゃなかったの?卒業式の最中に眩暈がする演技したの」

 「僕達が知ってるのでは、これで3回目ですね」

 「ああ。あと一回は、あの時の事だな。確か・・・」

 「お前ら、黙ってろ。賑やかにしてたら、体調不良が嘘だってバレる」


食べながら言うのは、説得力が欠けてるかもしれないとは俺も思うが。
桃は辺りを見回してから、俺に聞いてきた。


 「檜佐木先輩は一緒にいないの?」

 「あいつは、今頃ちやほやされて喜んでるはずだ」


来るもの拒まずだからな。
そのせいで、第二ボタンのゴタゴタに巻き込まれてるだろうが。
・・・あいつ、裸になって帰って来ないよな?


 「あ、そうだ。桃、手出して」


第二ボタンで思い出して、そのまま自分のを桃に渡す。
驚いていたのは桃と吉良だけだった。


 「いいの、お兄ちゃん?」

 「要らないなら、他の子にやるけど?」

 「もう、お兄ちゃんったら意地悪なんだから!」


桃がボタンをポケットにしまったのを見届けてから、俺はその唇にキスをする。
大声を上げたのは、吉良だった。


 「せ、先輩、何やってるんですか!」

 「あ?・・・ああ、お前は知らなかったっけ」

 「知らないって何を・・・」

 「俺達、付き合ってるんだ」


口をパクパクして言葉を発せられない吉良に、桃の方を抱いて見せびらかしてやる。
俺がこの学校を卒業するからといって、こいつに手を出されたら困るからな。
恥かしそうにする桃には悪いが、ここにいるやつらにだけなら知られても平気だろ。


 「ひ、雛森くん、今の話は・・・」

 「本当なの。お願い、誰にも言わないでね?」


決定的なダメージを受けた吉良は、力なく保健室を出て行く。
それを心配した恋次が後を追った。
乱菊は、まだ桃から手を離さない俺の頭を軽く叩いた。


 「イチャつくなら、とっとと家に帰りなさい」

 「この時間に帰ったら、まだいる生徒が集ってくるから、遠慮したいな」

 「帰りなさい」


有無を言わせないオーラを発して、俺と桃は保健室から追い出された。
だが、正面から堂々と帰るのは安全とは思えなかったので、人の少ない裏門から帰ることにする。
すると、そこで制服がぼろぼろになった檜佐木と出くわした。


 「酷い有様だな」

 「ちょっと侮ってたわ、俺の人気を」


よく言う。
自分がそんなに人気だと自惚れてるのか。
無視をして桃の手を引っ張って帰ろうとすれば、声をかけられた。


 「一人暮らしするなら遊びに行くから、よろしく」

 「女を連れ込まないって約束するなら良いぞ」

 「しない、しない・・・多分」


ああ、連れこむ気だ、こいつ。
これ以上の会話が無駄に思えて、それ以上は聞かないことにした。








なんとか、人に見つからずに帰宅した俺達は、いつもと変わらない生活に戻っていた。
桃は、台所で夕飯の準備。
俺は、それを待つべくテレビをぼんやりと見ていた。


何も変わらない。
そう見えても、俺と桃の関係は変化していた。


 「早いもんだな、一年が経つのは」

 「どうしたの、お兄ちゃん?」


独り言を耳にした妹が顔を見せる。
なんでもない、と答えたが、桃が隣に腰を下ろした。


 「一人で悩んでるんだったら、あたしにも話してね?聞くだけならできるから」


付き合いが長いから、一番欲しい言葉が何かを分かるんだろうか。
本当に、こいつが妹でなかったら、どれだけ嬉しかったか。


 「お前は、いつも笑っていればいい」


桃が幸せだと言ってくれるのが、俺にとっても幸せなこと。
この許されない恋がいつまで続くかは分からないが、全身全霊で桃を愛すことを誓った。
今の桃が必要だと思っているのが俺なら、それに答えようと。


 「それより、鍋が噴いてるぞ」

 「え?た、大変!」


慌ただしく台所に戻った桃の後姿を見送る。
夕飯ができるまで、俺は新生活の準備をすべく、一人暮らしをする部屋を探す事にした。








end.


-back stage-

管:一応、終わり。
桃:うそ!?最後、妙にしっくり終わっちゃったね。
管:だって、結局は近親相姦だもん。
桃:あっさり言ってくれるなぁ。
管:結局は・・・
桃:分かったから!
管:終わりが微妙な方が、続きがあるっぽくて良いじゃん?
桃:・・・どうだろう・・・

2007.02.09

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