休み呆けから目を覚ましてくれる事が次々と起こった。




what you want

〜元生徒会長の試練〜






五月。

ゴールデンウィークは家で時間を気にせずゆっくり過ごした。
だが学校へ戻れば、男が桃を狙ってるという噂が、気分を悪くさせる。


 「桃?何やってるんだ?」


たまたま廊下を歩いてれば、桃が俺に向かって歩いてきたから声をかけた。

桃の両手には大きな紙袋を持っている。
中を覗けば、何十枚もの便箋が入っていた。


まさか桃へのラブレターか?


その可能性を無くしたい思いで袋の中身を聞いてみた。


 「これ?ラブレターだよ」

 「桃にか?」

 「まさか!これ全部、お兄ちゃん宛てだよ」


よし。とりあえず、桃へのラブレターではない。
だけど、全部引き取るなんて桃も人が良すぎるな。
俺はこの学校のルールを教えることにした。


 「それ、くれ。燃やすから」


規則に反してこんな行動した奴らの手紙なんて、見る気にもならなかった。


 「なんで?皆の気持ちがつまってるのにひどいよ」

 
そう言うとは思った。
だが、俺は続けた。


 「この学校じゃルールがあるんだ。ラブレターや贈り物は直接本人に渡せってな」


あとそれを受け取る気がない奴には、無理矢理渡さない事を。


 「どうして?」

 「相手の顔も知らずに答えることなんてできないし、もらいたくないと処理が大変なんだよ」


だから俺は生徒会長になって、一番始めにその規則を作ったんだ。
生徒会の記念すべき一回目の改革がこれというのも情けないけどな。


すると、桃はしばらく考え込んでから質問してきた。


 「もしかして、お兄ちゃん入学した時から人気だったの?」


この質問にはどう答えるべきなんだ?
人気者かどうかなんて、自分じゃ判断しづらい。


 「一日にゴミ袋二つは人気だと思うか?」

 「・・・お兄ちゃんて、そこらへんの事、本当に疎いよね。かなり人気者だと思うよ」


かなり人気者、ね。
そのゴミ袋の一つは、男からの手紙だってのは教えないほうが良いな。


 「いつから生徒会に入ったの?」

 「ん?桃は会長と副会長がどうやって選ばれるのか知らないのか?」

 「うん」


一年は入学したあとに担任から制度を教えられてるはずなんだが。
桃は、忘れているみたいだな。


俺は簡潔に説明をした。



五月の終わりに学年を問わず成績が優秀な生徒五人が、まず先生によって選出される。
一年の場合は入試の成績が採用される。
そして、あと一人教員の推薦で選ばれる。
檜佐木は成績が悪くて留年したが、これによって選出された。

その次の日には、選ばれた生徒の誰を会長とするか生徒が投票する。
結果、一位と二位の奴が会長と副会長になる。
他のメンバーは後にこの二人によって形成される。



 「じゃあ一年生で選ばれるってすごいことなんだ!」


一年で選ばれたのは、檜佐木と裏で手を回したからだけどな。
でなければ、あいつも最初に推薦で選ばれることは無かっただろう。


 「でも二年連続会長を務めたなら、今年も選ばれるんじゃないの?」

 「いや、俺も檜佐木も次の選抜は棄権したんだ。選ばれることはない」

 「もったいない事したんだ」

 「別に残念に思ってないさ。一応、受験が控えてるという理由にはしといたけど」


俺は学校を自分の過ごしやすいようにできたから、生徒会にいる必要は無くなった。
檜佐木はモテる為に、目立ちたかったらしい。

目的が終われば、長居は無用。
俺達は、去年のうちに棄権することを伝えていた。


とりあえず桃には、手紙や贈り物をもらう時に無理にもらわないように念を押しておいた。
もらうな、と命令すれば反抗されるだけだからだ。
しかし、俺は自分宛の手紙が入った紙袋を預かると、真っ先に焼却炉へと向かった。









部活が放課後にないのは、暇だ。
勉強する気はなくとも、学校に残っていないと違和感がする。
サッカー部にでも遊びに行こうと席を立つと、クラスメートが叫んだ。


 「雛森、帰るなよ!今から学園祭の話し合いなんだから」


学園祭?
自分は生徒会の仕事で今まで参加してなかったから、この時期にやってたかもさえあやふやだ。
しばらくして、6月の頭に行われることを思い出した。



話が進むにつれて、俺にとって嫌な企画が提案された。
同じく辛い立場にいるはずの檜佐木は、隣で笑っている。


 「ちゃん、俺は綺麗な女になれると思う?」


悪ふざけでちゃん付けをしないでくれ。
頭が痛くなってきた。


 「誰がお前の女装なんて見たがるんだよ」

 「見たい奴がいるから、今この案が選ばれそうになってるぞ」

 「最悪だ。高校生活での初めて参加する学園祭が、これだなんて」

 「そうか?なかなか楽しめそうじゃねぇか」


発端は一人の女。
『男子は女装』という案を出してからだ。
それに便乗した周りの奴らが、次第に『元生徒会長と元副会長の女装が見たい』へと変わっていった。


悲しくもその案に異議を唱えたのは俺だけだったから、案が通ってしまった。
俺と檜佐木が、和風の喫茶店の看板娘をすることになる。
この事は学校新聞でも大きく取り上げられ、桃にも自然と知られた。


 「お兄ちゃん、女装するんだって?」


家に帰れば、早速問いつめられた。


 「絶対にしたくない」


居間のソファでくつろぐ俺の隣に桃は腰を下ろした。

第一、女装なんて定番すぎてやる意味がないはずだ。
なのに、何で周りはそこまで盛り上がることができるんだ。


 「着物とか着るの?」

 「考えたくもない」


一番の悩みどころである衣装を指摘されて、気分がさらに落ち込む。
着物なんて息ができなさそうな服、着せられることになってるんだよな。
当日は化粧とカツラも被されるし。


 「桃は、何するんだ?」

 「私のクラスは、コスプレできる写真館」


記念写真を撮る場所か。
コスプレ、ね。俺もコスプレのような事をするんだな。
ああ、思い出したらまた嫌になってきた。

しかし、コスプレって事は桃たちもそれをするって可能性がある。


 「ちょっと待て。桃はどこ担当だ?」

 「ルキアちゃんと看板娘することになったんだ」


駄目だ!
ルキアも可愛いけど、桃だって劣らず可愛い。
いや、ルキア以上だと俺は信じてる。
それがコスプレとなったら、放っておく男がいないだろう。


 「看板は止めとけ。他校生も来るんだ、問題に巻き込まれやすい」


なんとか正直な気持ちを伝えずに止めさせようとするが、効果は無かった。


 「そういう時は、お兄ちゃんの名前を出すよ。元生徒会長の妹って知ったら、大丈夫でしょ?」


だから心配しなくて良いよ、と微笑む桃を俺は強く抱きしめた。
俺をそこまで慕ってくれてる事が分かるのは、やっぱり嬉しい。


そんな桃は俺の弱点を見極めているのか、抱き返してくれると小さく呟いた。


 「お兄ちゃんの女装、見たいなぁ」



仕方ない。
ここは、こいつの為にも我慢するか。







-back stage-

管:頑張ってお兄ちゃんの名前を入れました。
桃:一瞬で終わっちゃったけどね。
檜:まぁ、次でも呼ばれるだろ、ちゃん付けで。
管:そうだねぇ。ちょっと遊ばれちゃう予定ですよ、お兄ちゃん。
桃:(何でかこの二人、怖いなぁ)

2005.01.11

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