今、微妙な感情の変化が起こってる。
what you want
〜狂った時計は針を休めない〜
六月。
初めての文化祭がやってきた。
ルキアちゃんと色違いのナースの服を着て、キャップを被る。
準備ができたと同時に文化祭は始まった。
「じゃあ、行ってきます」
私とルキアちゃんの働く時間は午後から。
それまで暇をもらったから、私は後ろで何か言っていたルキアちゃんを置いて走っていった。
向かう先は、お兄ちゃんのお店。
お兄ちゃんのクラスへ向かうと、入り口には三人立っていた。
檜佐木先輩は藍色の着物の裾をすでにめくりあげていて、
紅色の着物を着た髪の長い女性の後姿と松本先生が見えた。
先生は白衣の下に胸元がレースで飾られてる赤いキャミソールと黒いミニスカートを着てる。
大きい胸をしきりに紅色の着物を着ている人にくっつくけるかのように抱きついていた。
そんな行為って、先生として許されるのかな?
それでも、あんな色気たっぷりの女性に言い寄られたら男の人は喜びそう。
ふと自分の胸を見つめてしまって、馬鹿な事をしたと思った。
教室へ近づくと、檜佐木先輩が私に気付いて声をかけてくれた。
「見て驚くなよ?」
私が挨拶をする前にそう言うと、檜佐木先輩は彼の隣にいた人に声をかけた。
その人が振り向けば、まるで漫画みたいに白い百合の花が背景に咲くかと思う程の美人。
こんな綺麗な人、お兄ちゃんのクラスにいたんだと感心してしまった。
「我らがアイドル、ちゃんだぜ」
ニカッと笑う檜佐木先輩の言葉に耳を疑った。
『ちゃん』、ってことは・・・
「お兄ちゃん!?」
「当たり!」
言われて注意深く見れば、確かにお兄ちゃんの面影がある。
知らなかった、お兄ちゃんって女装似合うんだ。
「すごいね、ヤクザの姉さんみたいだよ!」
「それ、褒めてる気がしないな」
何でか私の褒め言葉をお兄ちゃんは気に入らなかったけど、それ以外になんて言えばいいんだろう。
背筋が真っ直ぐなのが、凛とした雰囲気を強調させる。
微笑まなくてもそのしっかりとした顔立ちが化粧で美しく見えた。
しばらくお兄ちゃんの姿に見惚れていると、追いかけてきたルキアちゃんが声をかけてきた。
だけど、彼女もお兄ちゃんの姿を見て驚く。
「貴様・・・もしや、か?」
「見るなよ。格好悪いだろ」
「いや。思わず、姉御と言いたくなる程綺麗だぞ」
「だから、その例えは止めろ」
いつもはお兄ちゃんの事を貶していたルキアちゃんも美人だって認めた!
私のお兄ちゃんは、色々な意味ですごい人だったんだな、て実感したよ。
「でも、雛森さんと朽木さんも可愛いじゃない」
松本先生が相変わらずお兄ちゃんに擦り寄ったまま、話を変えた。
なんとなく、先生のその肩に回してる手が気に食わない。
「二人でナースだなんて、俺、介護頼んでも良い?」
「阿呆か」
檜佐木先輩の言葉にお兄ちゃんとルキアちゃんが同時に答えた。
それが可笑しくて、その場の雰囲気がいっきに明るくなった。
校内放送で呼ばれた松本先生は、私たちに軽く挨拶すると保健室へと戻っていった。
そしてその入れ替わりに、阿散井君と吉良君の姿が見える。
「ちゃん、ちゃん。あいつら、騙してみねぇ?」
「その呼び名は止めろって何度言えば、分かるんだ。提案には乗るけどな」
「よし。じゃあ、ちゃんは黙って笑っとけ」
早速、檜佐木先輩が廊下を歩いていた二人に声をかけた。
「お前ら、雛森の知り合いだろ?入ってけよ」
何気ない会話を始めた二人は、そのうち隣に立っていたお兄ちゃんに目をやっていた。
チラリと見ては、少し頬を赤くして檜佐木先輩に向く姿は、騙しが成功している証拠。
そこを先輩は容赦なくつっこんだ。
「こいつ、綺麗だろ?俺らのクラスのアイドルだからな」
肩を抱き寄せられて、お兄ちゃんは眉間に皺を寄せた。
だけど、それも束の間の事で、阿散井君と吉良君に微笑んだ。
「ほ、本当に綺麗っすね」
「先輩にこんな綺麗な人がいたなんて、知りませんでした」
見事にひっかかった二人は顔を真っ赤にして喋る。
近くで見ている私とルキアちゃんは、笑うのを堪えるのに必死だ。
「残念だけど、こいつ雛森にしか興味ないんだ。なかなか落ちねぇぞ」
にやけた笑みで応対すると、二人は悔しそうに顔を歪める。
吉良君は、私と目線があうと、なぜか我がかえったかのように慌てふためいた。
「吉良の奴、もうからかえそうに無いから、止めようぜ」
突然お兄ちゃんが喋ったので、先輩は残念がり、ルキアちゃんは我慢せずに大笑いした。
私も一緒になって笑っていると、初めはついていけなかった二人も気付いたようだ。
「ひどいっすよ、先輩!騙したんですか!」
「騙すなんてことはしてない」
しらばくれるお兄ちゃんに吉良君が冷静に問いただした。
「『雛森にしか興味ない』というのは、嘘じゃないんですか?」
「嘘じゃないな。よく考えろ、『雛森』は俺だけじゃないんだ」
私に目を向けて、その意味が伝わった。
要するに、妹の私にしか興味がないということらしい。
・・・それって、兄弟じゃなかったら愛の告白みたいだよ。
変に胸がときめくのを押さえ込むかのように、スカートの端を強く握った。
「ま、騙されたわけだから、強制連行な」
檜佐木先輩が二人を喫茶店の中へ連れて行った。
そろそろ私達も他の場所を回ることにして、お兄ちゃんに別れを告げた。
「あ、桃」
呼び止められたから、振り向けば滅多に見れないお兄ちゃんの笑顔があった。
「その格好、可愛いよ」
言われたこっちが恥かしくなって、短く感謝の言葉を言うと走ってその場から離れた。
「一体どうしたんだ?」
人が少ない裏庭に逃げ込むと、ルキアちゃんが心配してくれた。
でも、私にだって何が起こってるのか理解ができない。
「最近、おかしいの。お兄ちゃんを見るとね、急に羞恥心がわき上がるんだ」
「おかしい事ではないだろう」
こんな事を相談する事にも照れてしまって、目に涙がたまる。
「自分の兄から離れようとしているんだ。成長したな、桃」
ルキアちゃんが何を言いたいのか、全然理解できない。
私の気持ちが伝わったのか、一つずつ説明してくれた。
「お主、さすがに今ではと共に風呂など入らぬだろう」
「うん。そんなの、恥かしいよ」
「それと一緒だ。ずっとお兄ちゃんっ子だったけど、ようやく分かったんだ。」
「何を?」
「あやつと何時までも兄妹ごっこ出来ぬことをだ」
そうなのかな?
私が、お兄ちゃん離れしようとしてるのかな?
だけど、それじゃあ他の事は説明できないよ。
だって、お兄ちゃんに近寄る女の人に嫉妬する。
だって、お兄ちゃんに触れられた場所は時間が経っても、暖かい。
だって、お兄ちゃんに微笑みかけられるだけで、私は一日幸せな気分になる。
こんな事言ったら、ルキアちゃんはあきれるのかな?
私、お兄ちゃんを『家族』としてじゃなくて『男の人』として好きかもしれない。
-back stage-
ル:また中途半端なところで、終わらせたな。
管:ブラコンと恋の境目って微妙すぎるよー。桃は天然ぽいし。
吉:書こうと思った君が悪い。
管:厳しいナァ、うちの吉良くんは。恋次、助けてー。
恋:なんで俺が。てか、ここでも俺は苛められてるじゃねぇか。
管:・・・・・・気のせい、気のせい。
皆:(何だったんだ、今の間は)
管:さぁ、次は7月だね!水着、水着〜♪そして七緒も登場。
2006.01.24
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