夏休みに入ったが、俺と桃は、また離れ離れになった。
what you want
〜溢れすぎた器は壊れる〜
八月。
桃は、ますます俺と距離をおくようになった。
洗濯物や飯の用意は、してくれている。
『おはよう』と『おやすみ』の挨拶も言ってくれる。
だが、それ以外は、何もない。
原因は、あれしかない。
資料室で、カップルが大人な行為をしていた事だ。
多分、あれのおかげで、今の桃は異性と関わりたくなくなってる。
こんな時、『兄』として、どのように接すれば良いのか。
質問したいのは山々だが、する相手がいない。
檜佐木に聞いたって、あいつは『俺が慰めてきてやる』とか言って、桃に手を出しそうだし。
阿散井と吉良は、こんな話に逆に驚いて役に立たないだろう。
だからといって、ルキアに頼めば、話がややこしくなりそうだ。
こういう時に友達が少ないのは、辛いな。
風呂から上がった俺は、肩をすくめた。
熱湯の中で考えすぎたのか、体が大分火照ってる。
上は着ず、ズボンだけを穿いて、浴室から出た。
キッチンで何か飲もうと寄ってみたら、ちょうど夕飯を用意してる桃がいた。
俺から話しかけるのも気が引けて、まっすぐ冷蔵庫に向かう。
すると、桃は小さく叫んだ。
「どうした?」
「べ、別に何でもない」
俺がキッチンに来た事に吃驚したわけではなさそうだが。
野菜を切り始めた桃に、これ以上追求することはできなかった。
スポーツ飲料を出して、その場でそれを口にする。
「サッカー部の皆は、どうだった?」
桃から会話を始めてくれて、俺は安堵した。
少しずつ、精神を取り直しているみたいだ。
「全然、変わってなかったよ。俺より弱いまんま」
「お兄ちゃんが、強すぎるんだよ」
お、笑った。
「練習に付き合って欲しいって言うから、てっきり強くなったのかと思ったんだけどな」
「まだお兄ちゃんを必要としてるんだね」
「冗談言うなよ。あいつらは、自立しなきゃいけないんだ」
いつまでも、他人に頼らないためにも、俺はサッカー部を止めたっていうのに。
効果は、まだ表れてない。
ふと桃がこっちを見ている事に気付き、目を合わせてみた。
しかし、桃は顔を赤くして手元を見直す。
まだ俺と目線をかわすことは、無理か。
「その、お兄ちゃんさ・・・暑いからって、シャツ着ないのは、駄目だよ」
言われてから、気づく俺も困りものだな。
あんな事があった後じゃ、裸体は禁止だったか。
「平気だろ。急に体温が下がるわけじゃないし」
「そうかもしれないけど・・・」
反抗してみた答えに、桃は口ごもる。
その様子があまりにも愛おしくて、抱きしめてしまった。
「お、お兄ちゃん!?」
「やっぱ、お前は可愛いな」
耳元で囁き、頬にキスをした。
少し体を離すと、俺を見つめる桃が言った。
「お兄ちゃんも格好良いよ」
照れ笑いをする桃を見て、俺の中で何かが弾けた。
桃の顎を掴み、上へ上げると唇を重ねた。
桃は、始め抵抗しようと胸を叩いてきた。
だが、それも束の間の事で、体を俺に委ねてくれた。
一度、唇から離れ、その時にできた口の隙間に舌を押し込めた。
このまま押し倒したい、なんて考えた罰だろうか。
突然、桃が体を突き放した。
「こんなの、おかしいよ」
「何が?」
『兄妹なのに』とかいう答えが返ってくるのは、承知してる。
それでも、俺はこれ以上、自分の気持ちを抑えることはできなかった。
「兄妹だよ、私たち」
「それが、どうした」
「どうした、て・・・駄目だよ、こんなの」
「どんなのだ?」
意地悪く笑うと、今度は乱暴に口づけをした。
離れた瞬間に、左の頬に痛みが走った。
目の前には、泣く桃がいる。
「もう、お前の事を『妹』として見れないんだよ」
俺は、自分の部屋へと戻ると、貴重品だけを持って家を出て行った。
すでに溢れ出た気持ちを抑える為に。
こういう時、相談できる友達はいない。
だが、そいつの家に居候しても文句を言わない知り合いなら、たくさんいる。
「しばらく泊まるぞ、乱菊」
思いがけない来訪客に、乱菊は驚きはしたが、迎え入れてくれた。
無言で入っていく俺に夕飯を食べたか聞いてきたので、食べてないと答える。
しばらくすると、俺の前には、スパゲティが出された。
「桃ちゃんと喧嘩でもした?」
「告白した」
スパゲティをフォークに絡めていた俺の前で、乱菊は飲んでいた飲み物を噴き出した。
「、今なんて?」
「告白したんだよ、俺があいつの事が好きだって。」
巻き終えた分を口に含んでいる間に、相手も冷静さを取り戻したようだ。
雑巾でテーブルを拭くと、いつもの魅惑的な笑みを浮かべていた。
「慰めてあげようか?」
「夏休みが終わるまで、ここにいさせてくれるだけで良い」
「構わないけど、家事をよろしくね?」
「・・・どこかで女ひっかけて、やらせようかな」
「もう遊ばないって決めたんでしょう」
冗談であっても、そんな事は言わないの。
そう注意した乱菊の顔は、笑みを絶やさなかった。
「サンキュ、乱菊」
「愛するのためだもの」
次の日の朝、俺達は俺の服を購入しに外へ出かけた。
-back stage-
管:はぅあ!?告白しちゃってるよ、いつのまにか!
桃:予想してなかったの?
管:もうちょっと、後になるかなぁと思ってたの。
桃:・・・・・・・・・
管:ちなみに、最初は桃がルキア嬢の家へお世話になるはずだった。
乱:じゃあ、私ってば、出てきたのがラッキーって事?
管:そうですな。
桃:相変わらずいい加減だなぁ。
管:臨機応変と言いなさい。
2006.03.15
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