空気が冷たくなれば、自然と暖をとりたくなる季節に入った。




what you want

〜そして違う道を歩みだす〜






十月。

いい加減、進路を決めろと教師が煩い。

大学受験でもする、と言ってみた。
そうしたら、今度はどこを受けるのかと質問してくる。
面倒だから、就職で、と答を変えれば、またどこに行く気かと問われる。


よくまぁ、周りは簡単に将来を決められるものだ。
それとも、この重いプレッシャーに負けたのだろうか。



 「本当にどうするつもりですか、さん」


昼休み。
資料室に避難すれば、七緒さんが聞いてくる。


 「どうもしないよ」



桃が、俺をどう思うか。
それによって進路を決めようと思ってる。

桃が俺を拒絶すれば、遠くに行けるような進路にする。
しなければ、家から通える場所を探すだけだ。
可能性としては、俺の気持ちが受け入れられない方が高いだろうが。



その時、机の上に置いていた携帯がガタガタと動いた。
メールのようだ。
七緒さんの前でメールを開けば、一瞬、思考がとまった。



桃からだ。



内容は、放課後に屋上に来てほしいというものだった。


 「さん?」


七緒さんに声をかけられて、意識を取り戻す。
なんでもない、とだけ伝えると、窓の外を眺めた。












 「雛森先輩、ちょっといいですか」


放課後に教室にやってきた吉良の口調は、断らせる様子がない。
桃からの用事があるのに面倒だと思いつつ、こいつを放っておくのも面倒だ。
大人しく吉良の後をついていった。



しかし、ベタだな。屋上に呼び出しか。
別に吉良の顔を見る気もないから、フェンスに背を預けて見上げる。
湿っぽい空気に、灰色の空。今夜は雨か。


 「最近、家に帰っていないそうですね」

 「まぁな」


とっとと吉良の話を聞いて、追い返さなければ。
いつ桃が、ここに来るか分からない。


 「雛森くん、元気がないんです」

 「・・・原因は、言ってたか?」

 「誰にも言っていないようです」


怖い顔して何を言うかと思えば。
いや、こいつが俺と話す時は、いつも桃絡みだったか。


 「たとえ、あなたでも彼女を傷つけるのは許せません」

 「俺が悪いのが、前提かよ」


見上げていた顔を吉良に向ける。
確かに、俺が悪いんだろうが、決め付けられるのも気分が悪い。


 「女性の気持ちを弄ぶような人が、悪いに決まってます」

 「ああ、そうですか」


俺が何時、弄んだのかを言ってもらいたい。
しかし、それを聞こうとすれば、話が終わりそうになかった。
吉良が喋り終わるまで黙っていようとすると、吉良が俺の胸倉を掴んできた。


 「あなたは、雛森くんが大事じゃないんですか」


一体、どうしたというんだ。
変に気持ちを高ぶらせるのも危険な気がして、相手の願いそうな答えを述べた。


 「大切にしてるさ」

 「だったら!何故、あなたは彼女が一番、あなたを必要としている時に傍にいないんですか」

 「あいつが今悩んでる事は、一人で決めるべき事だ。俺は、邪魔になるだけだろ」


その原因は、俺にあるわけだし。
変にプレッシャーを与えるのも、良くないだろう。

殴られたらどうしようか、と他の事を考え始める。
すると、しばらく耳にしていなかった懐かしい声が聞こえた。


 「お兄ちゃん!吉良君!何をしてるの?」

 「桃」

 「ひ、雛森くん」


桃が来る事を知らなかった吉良は、慌てて俺を手放す。
しかし、怒った顔で近づいてきた桃は、俺達を叱った。


 「ダメでしょう、二人とも!あれだけ喧嘩はしないでって言ったのに」

 「俺は何もしてないぞ」

 「お兄ちゃんが、気付かないうちに吉良君を怒らせるような事したんじゃないの?」


いや、俺は喧嘩しようとしてないぞ、という意味だったんだが。
久しぶりに桃の声を聞けて口元が緩むのを我慢してると、吉良は桃に何か言われて屋上を出て行った。


嫌な沈黙が続く。
この場合は、俺から話しかけた方が良いのだろうか。


 「ちゃんと考えたよ」


吉良が出て行った扉に目を向けたまま、桃が口を開く。
こっちに体を向けたかと思えば、すぐに顔を俯かせた。

ああ、振られるのか。

そんな予感がして、俺は今すぐにでもこの場を離れたくなった。
だが、ちゃんと考えてくれた桃の言葉を聞かずに離れるわけにはいかない。


 「あのね。あたし、お兄ちゃんの事は、家族として好きなの」


だから、元の関係に戻ろうとでも言うのか。
俺は自嘲気味に結論付けた。
これ以上、桃に辛い思いはさせたくない。


 「分かった。これからは、お前の兄として接する」

 「え、あ、そうじゃなくて・・・」


やっと俺を見てくれた桃の顔は真っ赤になっていた。


 「お兄ちゃんの事、家族として好きなのもあるけど・・・」


ちょっと待て。
そんな自分の都合の良いように動くのか?
期待しても良いのか?


 「男の人としても・・・好き、だよ」


夢じゃないよな。
ありきたりだが、自分の頬をつねってみる。
その様子を見た桃が、慌てた。


 「や、やっぱ変かな、兄妹なのに好きになるのって」

 「いや。それなら、俺はすでに変人だ」


桃を抱きしめて、目を瞑る。
触れられるだけで幸せな気分になれた。


 「お兄ちゃん・・・好きだよ」


もう一度嬉しい言葉を伝えてもらい、強く抱きしめる。
戸惑っていた桃の腕が、背中に回ってきた。


 「俺もだ」











-back stage-

管:やっとこさ、両思いです。
桃:長かった・・・ていうか、あたしの話は?
管:あー。欲しい?
桃:え、最初から書く気ないの?
管:ちゃっちゃと進みたいから、軽く触れるだけにする予定。
桃:「予定」って・・・
管:大丈夫、大丈夫。次は桃視点で話書くから、それで補うさ。
桃:・・・本当に大丈夫かなぁ・・・

2006.08.18

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