進路、かぁ。どうしよう。




what you want

〜初めての〜





十一月。

まだ一年生なのに、卒業後の進路についてアンケートがとられた。

あたしは、進学するんだろうな。
漠然ととらえる未来を紙に埋めてから、ふと気づく。



お兄ちゃんは、進路どうするつもりなんだろ?




 「は?俺の進路?」


家に帰ったら、お兄ちゃんがもう帰ってた。
この時期になると、学校も勉強優先で暇みたい。


 「そう。聞いてなかったから、気になって」


聞かなかったというより、聞けなかったのが正しいけど。
あたしが長い間お兄ちゃんと話をしてなかったから。


用意ができた晩御飯をテーブルに並べ終えて、あたしも腰を下ろす。
いただきます、と一緒に合掌をすると、ご飯を摘みながら答えてくれた。


 「大学に行くかもな。親が煩いし」

 「じゃあ、これからも自宅通い?」


今まで以上に楽しい時間を期待して、つい声を上げる。
だけど、お兄ちゃんは寂しそうに首を横に振った。


 「たとえ近くの国立に入ったとしても、俺は出て行く」


なんで?
これからもずっと一緒だと思ったあたしは、呆然と見つめることしかできなかった。


 「この間、親から連絡があってさ。帰ってくるんだと、次の春には」

 「そうなの?家には連絡が入ってこなかったのに」


お兄ちゃんが、お父さんやお母さんの事を良く思っていないのは知ってる。
昔から『親』という言葉だけで、二人を言い表していた。
きっと、長男だからという期待をすごくかけられてるからだと、あたしは思う。
そのせいで、お兄ちゃんは今まで楽しんでた事といえば、唯一やる事を許されたサッカーだった。


 「あいつらと顔合わせたくないし。自立するためとか理由つけて、一人暮らしするつもり」


寂しくなるな。
茶碗を持っていた腕が、下がる。
その手に、お兄ちゃんがそっと手を重ねてきた。


 「一人暮らししたら、誰の目も気にしないで一緒にいられるだろ?」


お兄ちゃんの優しい言葉で元気を取り戻したあたしは、とびっきりの笑顔で頷いた。









 「へえ。雛森先輩、近くの国公立目指すのか」


昼休み、二組の教室で阿散井君と吉良君を交えてご飯を食べる。
ちょうど、今日が進路アンケートの提出日。
ルキアちゃんが白紙のままで困っているという話から、お兄ちゃんの話に繋がっていった。


 「ここら辺の国立といえば、どこも難関だな」

 「すげぇな、あの人。いっその事、世界一スゲェ大学でも目指せばいいのに」

 「それは、不可能じゃないかな。あの人、そこまで優秀なわけじゃないんだから」


吉良君の刺々しい言い方が、気に食わない。
お兄ちゃんを馬鹿にされてるみたいで。


 「お兄ちゃんは、賢いよ!ただ、それを自慢したくないから、本気を出さないの」

 「そ、そう?雛森くんが、そこまで言うなら黙っておくよ」


なんだか納得がいかないけど、急にあたしが怒ったのも悪いよね。
吉良君に謝って、昼休みを終えた。









 「ただいま」


家の中は暗いけど、今日はお兄ちゃんが早く帰ってきてるはず。
部活が終わってから帰ると、あたしは居間の電気をつけた。


お兄ちゃんは部屋にいるのかと思って、二階に上がる。
ノックをしてから開いたけど、お兄ちゃんはいなかった。

携帯に何か連絡がないかと、メールをチェックする。
問い合わせをしたら、携帯が手の中で震えた。
着信の時間は、放課後。
内容は、七時には帰ると書いてあった。

時計を見ると、今は六時半。
あたしは、慌てて晩御飯の用意をし始めた。


 「ただいま」


前に作ったカレーを解凍してると、お兄ちゃんが帰ってきた。
おかえり、と伝えるために玄関まで小走り。
こんな事をしてると、ちょっとだけ夫婦みたいな感じがして、くすぐったかった。
今までと変わらないことをしてるだけなのに。


 「おかえり、お兄ちゃん」

 「悪いな、家にいなくって。急に練習試合の助っ人頼まれてさ」


でも、相手が強くって楽しかった。
笑って今日の出来事を教えてくれるお兄ちゃんの声を聞きながら、食べる準備をする。
すると、お兄ちゃんは話を変えてきた。


 「桃は、今度の日曜、空いてるか?」

 「特に用事は無いよ」

 「だったら、久しぶりに二人で出かけないか?」


鍋をかき混ぜてる手を止める。
だって、二人で出かけるって事は・・・。


 「デートだよ、デート。知り合いには、ただの『仲良い兄妹のお出かけ』にしか思わないだろうが」

 「い、行く!」


なら、日曜は十時に駅前な。
同じ家に住んでるのに、少しでもデート気分を味わおうと気遣ってくれたお兄ちゃんに感謝した。






初めてのデート。
そう意識すると、前の晩は興奮して寝付けなかった。
この日のために買った新しい服を身につけて、お化粧もちょっとだけする。
グロスと口紅を塗るだけで、自分じゃないみたいに思えた。


 「お兄ちゃん、お待たせ」


駅で待つお兄ちゃんのところまで走る。
念入りにお洒落した姿が珍しかったのか、頭を撫でてきた。
昔から、お兄ちゃんは照れた顔をあたしに見せようとしない時にする癖だ。


 「どこか行きたい所は?」

 「買い物がしたいな」

 「俺に何か買えってか?」

 「えへへ」


些細な会話に浮かれてると、急にお兄ちゃんが静かになる。
不思議になったあたしは、口を開いた。
だけど、声は出ない。
お兄ちゃんが口を塞いじゃったから。


 「んぅっ・・・はっ・・・お、お兄ちゃん?」

 「人前でやるのも楽しいな」


ぺろりと舌を出して、悪戯に笑う。
それで、あたしは改めて自分達が外でキスしたことに気づいた。


 「だ、誰か見てたら、どうするのよ!」

 「顔が真っ赤だな、桃。からかいがいがある」

 「お兄ちゃん!」


反省を全然してないお兄ちゃんを怒鳴る。
でも、こんな風にお兄ちゃんといられる事をあたしは幸せに思った。











-back stage-

管:桃とちょっぴりデート。
桃:結局、あたしの心境はあまり書かなかったね。
管:あはは。桃が全然でてこなかった分、関わらせようと思ったら長くなった。
桃:もう。まあ、絶対に書くとは言ってなかったから、大丈夫かもしれないけど。
管:次は、いよいよ12月。クリスマス。桃、貞操の危機か!?
桃:無い無い!変な事は言わないの!
管:はーい。

2006.10.28

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