嫌な夢を見た。




what you want

〜罪深き者への小さな祝福〜






十二月。

世間は、クリスマスだと浮かれまくってる。
そいつらは幸せだな、受験なんて考えなくて良いんだから。
まぁ、俺も特に勉強するわけでもないが。


しかし、クリスマスイブだというのに、今朝は目覚めが悪い。
夢に出てきた人物が、いけないんだと思う。





先月、意を決して桃をデートに誘った時。
俺は外であるにも関わらず、妹にキスをした。

理由は、簡単だ。
たまたま同じ場所にいた、あいつ等と目があったから。
ルキアと恋次だ。

せっかく二人で過ごす時間を邪魔されたくない為に、桃にキスをした。
その事に驚いた二人は、その場では声をかけずにいたから作戦は成功だ。

その後、どう言い訳するかも考えてなかった俺は、珍しくも馬鹿な事をしたと思ってはいるが。



学校でその事について、俺だけが二人に呼び出され、人のいない屋上に出る。
正直に自分の気持ちを述べるしかなかった俺は、桃を一人の女として見ている事を告げた。


 「正気か、


予想通り、ルキアが始めに口を開く。
恋次は、開いた口が塞がらない様子だ。


 「ああ」

 「彼女に迷惑が掛かると、思わなかったのか?」

 「一応、桃には何度も確認した」

 「え、先輩、冗談ですよね?」


まだこの事実を受け入れられないのか、恋次が聞いてくる。
俺は、首を横に振った。


 「だって、あいつは先輩の妹ですよ!」

 「分かってる」

 「分かってませんよ!でなきゃ、外であんなこと・・・」


続けようとした恋次をルキアが止めた。
こいつは、理解が早くてやりやすい。


 「この事、本人にも確認をとらせてもらう」

 「それでお前が満足するなら」






それ以来、ルキアは学校で会っても、何も言ってこない。
桃が何と言ったかは分からないが、彼女が黙って見届けることにするような内容だったようだ。
だから、あいつからは責められてる気分ではないはず。


だというのに、イブに後輩の姿が夢に現れるということは、俺もそれなりに気にしてるようだった。
俺もまだ血の繋がった妹との関係をパートナーとしてみて良いのか悩んでる。


 「お兄ちゃーん。もう、お昼になっちゃうよ。まだ起きてないの?」


桃の声が、ドアの外から聞こえる。
ベッドの脇においてある時計を見て驚いた。
悪い夢を見てたわりには、随分と眠っていた。


 「昼飯、よろしく」

 「早く食べれる方が良い?」

 「できれば」

 「じゃあ、チャーハンでも文句言わないでね」


足音が遠のくを聞いてから、体を起こす。
パーカーとジーパンに着替えてから、一階へ降りた。
その足で、キッチンに向かう。


 「顔を洗ってきてよね、ちゃんと」


注意をうけて、仕方なく顔を洗いに洗面台へ行った。
きちんと寝癖も直してから材料を切る桃に抱きつくと、彼女は手の動きを止めた。


 「おはよう、桃」

 「おはよう、お兄ちゃん」


その笑顔が可愛くて、俺は桃の額や頬にキスを贈る。
くすぐったそうに身動ぎすると、また料理を開始した。
俺は邪魔にならないように、居間でテレビを見る事にした。


それにしても、この雰囲気は新婚夫婦みたいだな。
自分で言いつつ、何だか照れてしまう。
相手に心を許されることが、ここまで喜ばしいことだとは思わなかった。


昼飯ができて食卓につくと、桃は今夜の予定を楽しそうに話してくれた。


 「今日はクリスマスイブだし、ご馳走を用意してるんだ」

 「じゃあ、冷蔵庫にあった鶏肉とかは、今夜のためか?」

 「うん。色々な料理を作るつもりなの」


それは楽しみだ。
微笑み返してから、桃へのプレゼントを何も用意していない事を思い出し、俺は出かけることにした。







桃へのプレゼントが入った小さな箱を手にして家に帰る。
悩みに悩んで選んだせいで、日は既に暮れていた。
結局、恋人が過ごすイベントをろくに過ごしていない気がする。


 「お、美味そうだな」


食卓に並べられた豪華な料理を目にして、率直な感想を述べる。
いつのまにか着替えていたのか、桃は違う服で俺を迎えてくれた。


 「あたしにプレゼント用意するの忘れてたお兄ちゃんとは違って、頑張りましたから」


どうやら、俺が出かけた理由はバレバレだ。
謝ると、桃は笑って許してくれた。


 「今年は、『お兄ちゃん』としてじゃなくて『彼氏』としてプレゼントを選んできてくれた?」

 「ああ。奮発してプレゼントを買ってきたよ」


この時間を楽しんでる桃に目を向けずに食卓に座る。
その方が、少しは気が紛れるかと思った。


着替えた桃は、別にお洒落をしていたわけではなかった。
だが、肩が見えそうなほどの胸元が開いたセーターとデニムのミニスカートから桃の白い肌が見える。
理性を保っていられるか、不安になってきた。
これで、『あたしがプレゼント』だなんて冗談ででも言われたら、抑えられないな。


 「プレゼント、すごく気になるなぁ」

 「先に食べよう。それから、ゆっくり見れば良い」


用意された皿に料理を盛る俺を見た桃は、俺の心境が分かっていない。
お兄ちゃんの食いしん坊、と文句を言って彼女も食べ始めた。






夕飯も食べ終え、俺達は並んで居間のソファでくつろぐ。
右側に座った桃の手に、買ってきたプレゼントを置いた。
目を輝かせながらプレゼントの中身を確認した桃が、声を上げた。


 「指輪だ!」

 「恋人からのプレゼントといったら、それかと思って」


チェーンに通された指輪を取り外し、それを桃の左手の薬指にはめてやる。
サイズはぴったりだ。


 「綺麗・・・」

 「誰もいない所でなら、俺の彼女であることを味わえるだろ?」


涙を浮かべた桃が感謝の言葉を述べる。
すると、今度は恥かしそうに俯いた。


 「あたしもお兄ちゃんにプレゼントを用意したんだけど・・・高いのは買えなくて」


値段なんて気にする必要なんて無いのに。
それに、桃の場合は料理をしてくれただけで、幸せだった。

渡されたプレゼントの包みを開ければ、サッカーボールのついた携帯ストラップが出てきた。


 「そういうのだったら、兄妹で同じものをつけてても、可笑しくないかなぁって」


そう言って、桃は自分の携帯を取り出す。
そこには、俺が今手にしているのと同じストラップがついていた。
不安にさせないよう、笑顔で答える。


 「サンキュ。大事にする」


安心して見せた彼女の笑みに耐えられなくて、その唇にキスをした。











-back stage-

管:なんか、主人公の性格が変わっていってる・・・
桃:え、そう?いつも、こんな感じだったと思うけど。
乱:ああ、きっと、彼女の前だからキャラが崩れてるのよ。
管:なるほどなー。

2006.12.20

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