初めて、何の連絡もしないで家に帰らなかったのが、始まりだ。
what I wanted
〜の過去話 前編〜
成績も運動も平均より上だと、将来を期待される事が多い。
俺の両親も、そうだった。
子の面倒は家政婦に押し付けて、自分達は仕事を満喫しているというのにだ。
中三になった俺は、毎日電話で海外に居る親の声を聞く。
その大半が、どこそこの有名校の入学試験を受けろ、という内容だった。
それが、嫌だった。
俺は、まだ子供で、遊びたい気持ちでいっぱいなんだ。
エリートを目指したいわけでもないし、親のその期待に答え気もない。
だから、どこの高校を受けようかと未だに悩んでいた。
いや、いっその事就職しようかとも思った。
「お兄ちゃん、遊ぼう!」
そんな中、中一になったばかりの桃だけが、俺の癒しだった。
家に帰れば、妹の笑顔で迎えられる。
それだけで、十分だった。
だが、そんな桃にすら優しく接する事が難しくなった。
ストレスの抱えすぎだろうか。
あまり桃とも喋ろうとはしなくなっていた。
六月。
学校が終われば、すぐに帰っていた俺は、初めて夜の街に足を踏み入れてみた。
親から与えられるプレッシャーで、ストレスが溜まっていたのかもしれない。
まだ大人な時間でないのに、裏路地で女の小さい悲鳴が聞こえた。
無視しようかと思ったが、ストレス発散には良いかもしれないと思って、裏路地に入った。
「なんだ?ガキが、邪魔するんじゃねぇよ」
見れば、金髪の胸のでかい女を壁に追いやって、五人の男が囲んでいた。
俺は、いたって冷静に話しかけてきた男に答える。
「だったら、ガキが歩き回ってる時間に、変な事を考えるな」
「変な事って、何だよ?俺達は、何もしてないぜ。なぁ?」
仲間に同意を求めて、嘲笑う。
こいつら、俺が子供だからってナメてるな。
しかし、相手の数は、五人。
安易に喧嘩を始めるには、難しかった。
とりあえず、相手の出方を見ようとした俺は、男らの後ろにいる女の行動に驚かされた。
俺に気をとられてる仲間の一人をスタンガンで気絶させたのだ。
チャンスだとばかりに、何事かと後ろを見せた男二人を殴って、気絶させる。
そして、殴りにかかってきた男の拳を避け、腹に蹴りを入れた。
残るは、一人。
何時の間にか俺の隣に来ていた女と、その男を睨みつけた。
すると、恐れをなしたのか、許してくれ、と詫びを述べながら走り去っていった。
それを見送った俺達は、表に出て、近くのファーストフード店へ寄った。
「すごいわね、アナタ。中学生なのに、あんなに強いなんて!」
お礼だ、と言って買ってもらったハンバーガーのセットを口にする。
人助けした後の食事は、美味かった。
「そういう貴女も、勇気ありましたよね。スタンガンで相手を気絶させるなんて」
「慣れてるから、ああいうの」
ニコリと美人に微笑まれて、悪い気はしない。
こんな綺麗な人だったら、襲われる経験も多くて大変だろうな、と思いつつ飲み物を手にした。
「あら、無反応?意外と、オチにくいのね」
「中学生相手に、オトすって可笑しいじゃないですか」
「イイ男は、見逃さない性質なの」
今度の笑みは、よく意味が分からない。
それに、と彼女は続けた。
「こんな時間にうろついてるなんて、一人前な男じゃない」
「まだ九時過ぎです」
もう寝る時間じゃない、と言われて、それ以上何も言えなくなる。
空になったコップをトレイに置き、そのトレイを持って立ち上がった。
女は、俺を引き止める。
「どこに行くの?」
「帰る」
「もっと一緒にいましょうよ」
俺の腕を掴んで、耳元で囁かれる。
何でか拒めなくなった俺は、無言で彼女の顔を見た。
くすりと笑うと、俺の持っていたトレイをゴミ箱の上に置いて、手を取った。
そのまま女に連れられたのは、ホテルだった。
「初めて、でしょ?」
一室を借りた女は、鍵を机に置いて、一つしかないベッドの上に腰掛ける。
俺はドアを閉じたまま、動けなかった。
「何を怖がってるの?家に帰りたくなかったんでしょう?」
奥に入ってこない俺を待ちきれないで、女が手を引く。
不敵な笑みは、すでに俺の心を見透かしていた。
「なんで、分かるんだ」
「女の勘ってやつよ」
緊張していない、と言えば嘘になる。
仰向けになった女の上に覆い被ると、彼女は俺の首に腕を回した。
「あたしは、乱菊。あなたは?」
「・・・・・・」
不器用に乱菊を抱き始めた俺に、彼女は優しく指導してくれた。
「!こっちよ、こっち!」
紅葉の季節には、俺は乱菊と週末を過ごすようになっていた。
手を元気に振って呼ぶ彼女の元へと走ると、いきなり抱きしめられる。
乱菊の隣にいる男は慣れているのか、ただ話が終わるのを待っていた。
「本当に可愛いなぁ、は」
「おちょくってんの?」
「あたしなりの愛情表現じゃない」
紹介したい人がいると言われたのは、夏の終わり。
彼女の男友達が、乱菊から話を聞いて俺に会いたいと言ったらしい。
別に断る理由も無かったから、俺は会うことにした。
「ふーん。こいつが、『』?」
「そうよ〜。イイ男でしょう」
上から下まで眺められて、訝しげな顔をすれば、歯を見せて笑われた。
「うん、合格」
「は?」
「俺、檜佐木修兵。よろしくな」
「ひ、雛森だ。よろしく」
差し出された手を握り返す。
何なんだ、この男?
何が『合格』なのかも分からずにいると、相手は手をひらひらさせた。
「大丈夫、大丈夫。食ってかかるわけじゃねぇから」
「ってば、どこの高校受けるか、悩んでたじゃない?だから、彼を会わせようと思って」
乱菊が助け舟を出しても、話についていけない。
喫茶店に入り、一つずつ話を聞かせてもらった。
「つまり、俺に檜佐木の高校へ入れっていう事か?」
「まぁ、簡単にいえば、そうだ」
そんな事なら、俺でなくても良いのではないかと思ったが、檜佐木が通ってるのは有名校の一つらしい。
そこに彼の知ってる人間を入学させ、生徒会委員になり、自分の過ごし易い学校を作るのが目標だとか。
阿呆らしい。それに付き合う人間がなかなかいないと言うのも、納得できる。
「頼む!俺の所なら、お前の親だって文句は言わねぇだろうし、女には不自由させねぇから!」
「・・・女、ねぇ」
乱菊が相手だと、特に不自由だと感じた事は無いんだが。
横目で乱菊を見ると、その意味が伝わったのか、嬉しそうに微笑んだ。
「あたしは、が誰と寝ても構わないわよ?」
「そうか?なら、それで手を打つか」
こうして、俺は檜佐木と知り合いになり、数々の女を抱くような生活をするようになった。
-back stage-
管理:過去話、まずは乱菊との馴れ初めです。
乱菊:結構、アッサリしてるわねぇ。
管理:貴女の性格は、誰にも何時でも掴めない、というのが魅力なんで。
檜佐:俺との出会いは、短くねぇか?
管理:本当は、男と会話させるのも嫌だったんだけどな。
檜佐:おい!?
管理:だから、後半も男は、あまり登場しません。
2006.06.01
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