私は、なんて醜い心をもってしまったんでしょう。
what is this feeling?
「七緒、調子でも悪いのか?」
食堂で昼休みを過ごしている時に。
まさか、この挙動不審になる原因をつくる人から疑われるとは思わなかった。
「そ、そんな事ありません」
眼鏡をかけなおすことで、顔を見られないようにした。
だけど、相手は話を変えようとはしない。
「そうか?今も顔が少し青ざめてるように見えるぞ」
「気分が悪そうに見えるんでしたら、貴方もちゃんと仕事をして下さい」
「他の隊の心配するぐらいなら、お前、睡眠とったら?」
「無理ですね。仕事が溜まります」
そこまで言うと、彼は勝手に私がただ疲れているだけだと思ったようだ。
それ以上追求されることは無くなった。
助かった、と気を緩めて悟られないようにさんの顔を見た。
が、また変な想いが湧き上がってくるのを感じて、目を伏せた。
「更に顔色が悪くなってないか?」
「なってません!」
ああ、どうしよう。
私は、とうとう隊長のような人間に成り果ててしまった。
「どうしたのよ、一体?」
ふいに食事を共にしていた人ではない声を聞いて、顔をあげた。
すると、先ほどまで目の前にいたさんはいなくなり、代わりに松本乱菊さんがいた。
「え、あの・・・さんは?」
「昼休みが終わったから、仕事に戻ったわよ。あたしに貴女を任せて」
周りを見渡せば、すっかり人はいなくなっていた。
後で彼に謝っておかなければ。
「唸ってたみたいだけど、何かあった?」
この人に相談するべきなのだろうか。
多分、私の悩みを解決はしてくれるだろうと分かってはいるけど、遊ばれそうで怖い。
言う事を躊躇っていると、彼女は優しく微笑みかけた。
「大丈夫。誰にも言わないから」
信用しても良いのか、なんて考えても仕方が無い。
私は、胸のうちを話すことにした。
「なんだ、そんな事」
そんな事、で終わらせられると、こちらが困る。
私にとっては、大きな問題であるのを簡単にあしらっているかのようだ。
「真面目に聞いた私が愚かでした」
「ああ、ごめんね。そういう意味じゃないの。可愛いなぁと思ったの」
予期していなかった事を言われて、思わず顔をゆがめてしまった。
「今言った事、全部素直にに言っちゃいなさいよ」
「で、できるわけないでしょう!それこそ、軽蔑されます」
「しない、しない。それは、京楽隊長のせいじゃないから、大丈夫だって」
「ですがっ・・・」
「ちょうど本人が来たから、吐き出しちゃえば?」
彼女が指差す方向を見ると、入り口にさんが入ってくるのが見えた。
だけど、心の準備がなってない状態で話しかけるには、勇気がいる。
深呼吸を幾度か繰り返してから、彼に近寄った。
「さん、ちょっと良いですか?」
「へ?構わないけど。七緒、具合の方は良いのか?」
「それについて話したいんです。できれば、人がいないところで」
少しでも自然に彼を人が寄り付かない資料室に連れて行くことができた。
あとは、自分の言いたい事を言うだけ。
何を伝えられるか分かっていないさんは不安そうだ。
「こんな人気のない所で話って・・・まさか、七緒。死ぬ病気か?」
「違います。まぁ、精神的には病も同然かもしれません」
「最近流行ってる精神病か。原因は何だ?やっぱ、隊長か?」
「それも違う、と先ほど言われました」
腕を組んで悩む彼に、素直に思うことを言うだけ。
それだけなのに、彼の顔を直視できなくて困った。
「だけど、お前がストレス抱える事って、それぐらいだろ」
「隊長が絡んでいないとは言えませんね」
さあ、言いなさい。
自分の思っていた事をすべて吐き出しなさい。
「あの、さん。私、貴方の事が・・・」
「俺も好きだよ。七緒のこと」
口にしようとしていた言葉を先に言われ、唖然とした。
というより、彼の口ぶりからすると私の気持ちを察していたらしい。
「な、何故?どうして気付いたんですか?」
「なんとなくな。最近、俺に対してだけ態度がおかしかったし」
両思いだったとは、気が抜ける。
でも、まだ言っておかなければならない事はまだ残っていた。
「さんに想いを寄せている自分に気付いてから、思考が変になってしまったんです」
「どんな風に?」
「まるで隊長の悪い菌にでもうつったかと思うほど、その・・・あの・・・」
いざとなると、やはり言いにくい。
さんの唇を見ると、思わず口づけしたくなるとか。
口づけだけでは終わらずに、舌を口の中へ割り込ませたいとか。
顔を見ているのは危険だと思って下を向いても、他に目に入る肌を見ただけで口を寄せたくなる。
少しさんに触れただけで、私は彼のすべてを自分のものにしたくなる。
同時に、さんにもっと触れてほしいと願ってしまう。
思考はどんどん深まり、心も体もとろけてしまって一つになりたいと思ってしまっていた。
こんないやらしいことを考えるなんて、あの隊長と時を過ごしていたせいかと思った。
私もとうとう可笑しくなってしまったかと。
そんな想いが浮かぶ度に、この事を知ってしまった彼はどう反応するのか怖かった。
だから、どうすれば元の自分になれるのかと悩んでいた。
また可笑しな妄想をしないように。さんを見ないように。
「いやらしい事ばかり考えてたんです」
もう彼の顔も見れなくて。
俯いた状態で、彼の返事を待った。
今の私は嫌われてもおかしくないと思って。
すると、顎を上に向けられたかと思うと、唇が重なり合った。
突然の行為に驚きはしたものの、己の欲望が叶うことを悟ると、身を任せた。
微かに口を開くと、待ってましたといわんばかりにさんの舌が入り込んできた。
その生暖かい感触を口内で確かに感じる。
何度も何度も角度を変えて、彼のも混ざった唾液を飲み込みながら続けた。
腰がくだけそうなくらい甘くて激しいをずっと、ずっと。
気付けば、私はさんの首に腕をまわしていた。
そして、彼も私の腰に腕を。
この密着した状態を終わらせたくなくて、私は自分から邪魔になるであろう眼鏡を取り、髪留めを解いた。
「俺もずっと、いやらしい事しか考えてなかったよ」
そっと乱れた髪を撫でる彼の台詞で、やっと意味が分かった。
私はいやらしい人間になったわけではない。
ただ、さんを愛しすぎてしまっただけだ。
-back stage-
管:いつもとはちょびっと違うテイストになったな。
七:(『ていすと』とは何なのだろう??)珍しく過激・・・ですね。
管:うーん。でも、このネタは絶対七緒でないと戸惑わないだろうなと思って。
七:そうですか?
管:ほら、エロしか考えてなさそうに見える隊長の元で働いてるから、特に気にするだろうと。
七:なるほど。ところで、何故私は『松本乱菊さん』と呼んでたんです?
管:君がどう呼んでるかなんて分からないんだもん。やっぱ松本さん、かなぁ。
2006.02.09
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