「約束どおり、来たな」
日曜の朝10時。
駅前で待ち合わせの約束をした美琴が、の前に現れた。
その顔は、非常に可愛らしいとは思えないほどに脹れている。
「不満そうだけど、容赦なくさせてもらうぞ」
「分かってるよ。だから、ここにいるんだろうが」
だったら、そのふくれっ面を直してもらう必要があるな。
愉快そうに、は彼女の髪を自分の指に絡める。
他者とそのような触れ合いを経験したことがない美琴の頬を赤くするには、十分だった。
「おまっ・・・なに、恥ずかしいことを・・・」
「よし。まずは、服を変えよう」
「へ?」
先に歩いていったのあとを彼女は仕方なく追った。
そもそもの発端は、が美琴の応援するプロレスラーを批判したところから始まった。
「アイツが負けるはずがない。周防はアイツを知らないから、そう言えるんだ」
「それは、戦歴を見てから言えよ。比べようにないほど、差が圧倒的だろ!」
「それでも、今度の試合は負けるだろうな」
「なら、賭けるか?」
美琴の挑発に、が乗る。
「勝った方の言うことを何でも聞く、でいいか?」
「上等だ!後悔すんなよ、!」
結果、美琴は賭けに負けたのである。
そして、勝ったは美琴に『今度の日曜、一日俺の言うことに従うこと』と宣言したのだった。
「だからって、何で、アタシがこんなこと・・・」
普段着で家を出てきた彼女は、によって変身させられた。
彼女が連れられた場所はブティックであり、が選んだワンピースを着る羽目になった。
もちろん、美琴は拒んだのだが、命令だと言われてしまえば、抵抗はできなかった。
「まだ不満か?せっかく、俺が似合う服を見立てたのに」
高級な服であることは店を見るだけで分かる。
代金は、金持ちの息子だというが支払っていた。
「先に言ってくれれば、持ってるスカートを穿いてきたってのに」
「そうだとしても、俺は買いに行ってた。きっと、俺好みじゃなかっただろうからな」
どれだけ自分勝手なんだ、こいつ。
呆れて開いた口が塞がらない美琴など気にせず、は手を差し伸べた。
「次は、美術館に行くぞ」
「・・・お前、絵に興味無いって言ってなかったか?」
「無い。周防も無いだろ?だから、行くんだ。安心しろ、金は全部俺もちだ」
「なっ、勿体無いことするな!」
美琴の手を取ったがにやりと笑う。
「勿体無くないね。わざとお前が退屈になるようにしてるんだから」
「完璧に無駄遣いじゃねえか!」
がしている行為は全て故意だと分かった美琴は、機嫌が良いはずがなかった。
さすがに遊びすぎたかと反省したは、美術館の付近にあったクレープ屋に向かった。
「ほら、何でも好きなのを頼めよ」
「次はどうするつもりなんだ?」
「何もしないって。クリームが口についてたら、笑うだろうけど」
頑なに食べないと言い張ってしまった美琴には攻め方を変えた。
「誰が賭けに負けたんだっけ?」
「だー!わぁーった、分かったよ。食べればいいんだろ、もう」
大人しく、彼女が注文したクレープを食べる様子を見て、は笑う。
思わず、美琴は口の周りを確認した。
「違う、違う。やっぱ、周防にお嬢様な雰囲気は似合わないってのを痛感しただけだ」
「さりげに失礼なことを言うなよ。それって、アタシが女らしくないってことだろ?」
「周防は、紛れもなく女だよ。さて、ここからは、お前がリードしてくれ」
拍子抜けした美琴にが告げる。
「動きやすい服に買い換えろとか、ゲーセンで対戦とか。周防が楽できるデートを始めよう」
にっこりと微笑むを見るのが照れくさくなり、美琴は誤魔化すように答えた。
「もう命令は聞かなくても良いんだ」
「一日は終わってないから、まだ聞いてもらう。これも、命令だと思えばいい」
すると、何か思い至ったのか、は続けた。
「移動中は、ずっと手を繋ぐってのも、命令な」
「そこまでする権利、お前には・・・!」
「俺ルール発動中ー」
「それ、命令関係なくマジで言ってるだろ」
「当然。どっちにしろ、今日一日は俺の命令に従わなきゃならないんだから、一緒だけどな」
負けを認めている美琴は、律儀にも彼の言うことに従った。
- back stage-
管理:ほんと、義理堅いよねえ、君。
美琴:書いたお前が言うなよ。
管理:最初は、俺様キャラだけにしようかと悩んだんだけど、少し混ぜた感じに仕上げました。
美琴:強気なのと、俺様ってのは、違うもんなぁ。こっちの方が無難だし、正解だろ。
管理:君にとってはね。もっと生意気な性格でも良いかと思ったんだけど、話が長くなるので止めた。
美琴:は?それって、どういうことだ?
管理:知らない方が幸せってこともある。この作品は誰でも持ち帰り可能です。
美琴:て、おい!?
2008.03.28
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