「、これをあげるからデートをしていきなさい!」
部室に入った俺の前に紙をなびかせて、涼宮は命令してきた。
数分の幸せ
「遊園地の招待券?」
目の前にある紙が何なのかを読み上げると、涼宮は頷いた。
「知り合いからもらってきたのよ、のために!」
「奪ってきたわけじゃないよな?」
「失礼ね!あたしは真剣にの恋を応援しようとしているだけなのに!」
俺の恋、ね。
その相手と他の部員がいる部屋で言われても、面白がってるようにしか聞こえない。
最初は恥かしくて死にそうだったが、慣れるとそうでもなくなってきた。
「いらね。大体、お前は本人の意見も聞いてないだろ?」
「有希なら、嫌とは言わないでしょ」
誰か、こいつを止めてくれ。
助けを求めるようにキョンや朝比奈を見たが、彼らは自分の平和を守りたいらしい。
こっちに目を向けていなかった。
「とにかく!今度の日曜の朝十時、現地で集合だからね!」
涼宮は勝手に待ち合わせを決めると、チケットを長門に手渡し、団長の席に腰を下ろした。
約束の時間の十分前。
早めに来た方だったが、そこには既に長門の姿が見えた。
彼女は相変わらず、制服姿か。
はりきって新しい服を用意した俺が馬鹿みたいに思える。
「悪い、長門。待たせたか?」
「別に」
愛想が無いな、本当に。
俺も、どうしてこんなヤツが好きになったんだか。
「じゃあ、行くか」
長門に手を差し伸べると、招待券を持たされる。
いや、この場合は手を繋ぎたかっただけなんだけどな。
『さぁ、いよいよね!、男を見せなさい!』
『何で俺達も来なきゃならないんだ?』
『いやぁ、楽しそうですねぇ』
『あ、あのぉ。やっぱ、二人きりにしてあげた方が・・・』
背後に感じる視線を無視して、俺達は入場した。
遊園地に来たは良いけど、何すればいいんだ?
適当に歩いている間に、どんどん時間が過ぎていく。
「お前は、遊園地好きか?」
せっかく与えられたチャンス。
たとえ、どんな裏があろうとも有効的に使わなければ勿体無い。
そう思って話しかけてみるが、あまり会話は弾まなかった。
「俺は、苦手だね。乗り物酔いはするし、お化けも怖いし」
自分一人で話し始める。
長門は聞いているのか全く分からない。
「遊園地の楽しみ方がイマイチ分からねぇ」
「なんで来たの?」
やっと長門が口を開く。
彼女が俺の話を聞いていてくれていた事を喜びながら、答えた。
「長門とデートしたいからだよ」
「そう」
勇気を出して本心を言ってみるが、長門は流してしまう。
キョンは、どうやってこいつの心境を読めるようになったんだ?
この反応の無さのどこかに、照れていることが分かれば、俺も浮かれるんだが。
「長門は、どうして来たんだよ?」
普通の会話なら、この質問をするのは可笑しくないだろう。
だけど、長門は足を止めて俺を見つめていた。
「俺の顔に何かついてるか?」
「・・・別に」
顔を背けて、歩み始める。
答えが出るまでの間が気になりながらも、彼女の後についていった。
『デートだっていうのに、なに楽しく無さそうに過ごしてるわけ?』
『二人とも遊園地が好きじゃないなら、仕方ないだろ』
『そんなの知らないわよ!普通、真っ先にジェットコースター乗るじゃない!』
『だから、あいつ等はお前と違うんだってば!』
俺の背後で、聞いた事のある声を耳にしたが、それも無視をする。
「せっかく来たんだし、何か乗るか」
目的も無く歩き続ける長門に声をかける。
すると、彼女は行きたい場所を指した。
観覧車だ。
「うるさくない」
ああ、長門も気づいてたか。
デートをしてこいと言った人物が、俺達をつけていたのを。
可哀想にな、キョンも朝比奈も巻き込まれて。
古泉は絶対に楽しんで見てるだろうが。
少しでも涼宮から逃げたくて、観覧車に乗り込む。
そこで、また俺が一方的に話しかけて場を盛り上げようとした。
長門は、やっぱり何も喋らない。
だが、俺の目を見てくれるようになった。
それはそれで、照れくさくて困る。
俺達の乗ってる箱が、頂点に達する。
その時、下から痺れを切らした様子の涼宮の叫び声が聞こえた。
『こうなったら、観覧車!止まりなさい!』
また無茶な事を言うな、あいつも。
なかなか俺達の仲が進展しないのが、そんなに気に食わないか。
籠から飛び出す勢いな彼女を押さえるキョンが僅かに見える。
俺としては、あいつらがいるから、なかなか一歩踏み出せない気がする。
神は、誰の味方をしてるんだか。
突然、観覧車は動きを止めた。
『お客様にご案内申し上げます。ただいま、原因不明の事故により・・・』
スピーカーから、しばらく停止する事が伝えられる。
まさか涼宮の言うとおりに止まるとは思ってなくて、俺は驚いていた。
「大丈夫、すぐ動く」
向かいで静かに座る長門が、俺に言う。
そんなにパニック状態になってたか?
「お前がそう言うと、そんな気がする」
「でしょ」
初めて見る、小さく笑う長門は、可愛かった。
その顔はすぐ無くなったが、ここが観覧車で助かった。
こんなの、誰かに見られたらまたライバルが増えるだけだ。
幸せすぎて壁に頭をぶつけたい気持ちを抑える。
外を眺めていると、アナウンスが流れた。
『大変長らくお待たせいたしました。これより、運行を再開します・・・』
もう終わりか。
て、当たり前だよな。
ドラマみたいに夜まで閉じ込められたりはしないだろう。
「長門。これ降りたらさ、涼宮達と合流しようぜ」
まあ、だけど、収穫はあった。
彼女が笑った顔が見られただけでも、閉じ込められた意味がある。
これ以上を望んじゃ、罰当たりだ。
長門は、黙って頷いた。
俺達は観覧車を降りると、少し先へ歩いていった。
慌ててその後を追う涼宮達がいるのを確認してから、振り向く。
「お前らは、なんか乗りたいのある?」
「何よ。最初から気づいてたわけ?」
「分かり易すぎるんだよ、特に涼宮の場合は」
ちょうど俺達のデートの様子を見るのも退屈していたのか、涼宮はアッサリ認めた。
俺の言った事なんて無視して、遠くにある乗り物を力強く指した。
「皆、ジェットコースターに乗るわよ!」
進む涼宮の左手には、逃げ出さないよう朝比奈が捕らえられている。
それを楽しそうに見守る古泉と、黙って涼宮についていく長門が続いた。
俺とキョンは、どうしようもなく、それを見届ける。
また普段と変わらない日常が戻ってきた。
「。お前、良かったのか?長門とのデート終わらせて」
隣でキョンが訊ねてくる。
いいんだよ、今の俺は十分に幸せなんだから。
「涼宮に恋のキューピッドされたら、あとが怖い」
成功したら、俺は一生、あいつの奴隷にでもなりそうじゃね?
そう笑って言えば、納得したキョンが慰めにか、俺の肩を叩いた。
「ちょっと、キョン!!早く来なさいよ!」
涼宮の怒鳴り声がして、俺達は急いで四人の元へ走った。
長門と目が合い、微笑みかける。
すると、少し彼女が恥かしがったように見えた。
うん、やっぱ今のままで十分に幸せだ。
-back stage-
管理:長門だけでギャグは無理だと思い、ちょっぴりSOS団を参加させました。
長門:そう。
管理:あんまりギャグになって・・・ませんね。すみません。
長門:甘いのは、ある。
管理:そんなんで許してくれるか不安ですが。持ち帰りは、誰でも可能です。
長門:返品も。
管理:痛いこと言わないで。ちなみに、主人公は普通な人設定でも読めるようにしました。
2006.10.08
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