証明写真



 「しっかし、お前が真剣に誰かと付き合うことになるとは思わなかったぜ」

 「愛理ちゃんって、いつも色んな男の人とデートしてたもんね」


放課後、普段と変わらず、四人の女生徒が談話する。
彼女達の最近の話題は、愛理が付き合い始めた事だった。


美琴と天満が愛理を冷やかすと、愛理は照れ隠しに2人を怒鳴る。


 「わ、私は別に男を弄んでたわけじゃないわよ!」

 「誰もそんな事言ってないよ」


晶が指摘すれば、愛理は黙り込む。
その様子を三人は楽しそうに見守っていた。


 「それで?あいつとは、どんな感じなんだよ?」

 「どうって・・・別に何もないわよ」

 「ええ〜?そんな事ないでしょ、愛理ちゃ〜ん」


にやけた顔で、三人は愛理を膝でつつく。
この攻撃に耐えられない彼女は、クラスメートに呼ばれて救われた。


 「おやおや、彼氏さんの登場かな?」

 「もう!黙っててよ、天満!」


頬を赤く染めたまま、彼女達の輪から愛理は離れた。
くんが迎えに来てるよ、と教室の入り口を指すクラスメートにお礼を告げる。
ドアに近づくと、相手は片手を上げて簡単に挨拶をした。


 「一緒に帰らないか?」

 「いいけど、の家は逆方向でしょ。一緒に帰れないじゃない」


心を通じ合わした後でも、愛理は照れて捻くれた言い方しかしない。
だが、彼は特に気に留めていないようだ。
だったら、と言葉を続けた。


 「商店街でデートでもしようか?」

 「・・・仕方ないわね。鞄をとってくるわ」


自分の席に戻って、帰る支度をする。
その様子を友人らは、にやけた顔で見守っていた。


 「もちっと素直になれば良いのになぁ」

 「そんなに捻くれてると、嫌われるよ」

 「せっかく両思いなんだからさ、甘えちゃえ!」


好き勝手言う彼女達を放って、愛理は彼の元へ急いで戻った。








商店街でデートをしよう、と言われて愛理は落ち着かなかった。
彼女の歩調に合わせて歩くの顔をチラリと覗く。
それだけで、彼女の胸のときめきは止まらなくなる。
こんな感覚は初めてだ、と愛理は戸惑っていた。


 「あ」


が漏らした声に、愛理が過剰に反応する。
彼の目は、コロッケ屋に向けられていた。


 「な、何?急に」

 「あれ、食べよう」


彼女の答えも聞かず、は愛理の腕を引っ張る。
そんな彼の行動に、愛理は足がもつれないよう気をつけることしかできなかった。


 「いらっしゃいませー」


食べ歩きができるよう準備されたコロッケに目を通す。
愛理は、悩むに声をかけた。


 「とっとと買っちゃいなさいよ」

 「うーん。かにクリームとミンチ、どっちにしよう・・・」

 「そんなに悩むなら、両方買っちゃえば?」

 「お前は、それで良いのか?」

 「私?別に構わないわよ」


コロッケを食べるのに時間を消耗すると考えたのか、愛理は軽い気持ちで了承する。
それを喜んだはコロッケを二つ買うと、一つを愛理に手渡した。


 「え?」

 「あ、愛理はこっちの方が良かったか?」

 「そういう問題じゃなくて。何で、私に渡すのよ」


不思議そうに聞いてきた彼女に対して、は冷静に彼の解釈を伝えた。


 「だって、お前が自分の分を俺の欲しいヤツでいいって言ったんだぞ?」


そういうことか。
愛理の体から力が抜ける。


 「そもそも。私、コロッケが食べたいだなんて一言も言ってないわよ」

 「へ?何だ、それなら先に言えよ。ま、勿体無いから一口ぐらい食っとけ」


がぶりとは持っていたコロッケを口にする。
その一口で、コロッケは既に半分無くなっていた。

大きな口だこと、と呆れつつ愛理もコロッケを食べた。
熱すぎて小さな一口でしか食べられない。


 「やけに遠慮してるな、愛理」

 「熱くて食べれないのよ!」

 「それが良いのに・・・ほら、こっちやる」


半分しかないコロッケを彼から受け取る。
彼女は代わりに自分の持っていたコロッケを渡そうとしたが、その前にが一口食べた。
突然、距離が近くなって愛理は緊張する。
そんな事はお構い無しには満足そうな笑みで、呟いた。


 「美味いな、これも」

 「じ、自分で持って食べなさい!」







コロッケを食べ終えた時、愛理はすでに恥かしさで参っていた。
その後、は自分の手で食べるのも面倒になったのか、それとも楽しんでいたのか。
愛理にコロッケを食べさせてもらっていた。
それを夕方の商店街という、人が多い場所でやっていたのだ。
注目を浴びていたのは、言うまでもない。


 「お、ゲーセン。寄ってこうぜ」


またしても、は愛理の意見も聞かずに入っていく。
普段の彼女ならば文句の一つや二つを言うのだが、黙ってついていくのは相手に恋をしているからだろうか。


 「面白いもん、見っけ」

 「・・・何が面白いの?」


何の変哲も無いプリクラを前にして、愛理は問う。
はその時の怒りを思い出したのか、悔しそうに答えた。


 「俺のダチがさ、彼女と撮ったプリクラを見せびらかしてきたわけ」

 「それが、どうしたわけ?には関係ないはずでしょ」

 「そうなんだけど・・・あいつ、プリクラなのにすっげーイチャついてやがって」

 「いるわね、そういう事をする馬鹿が」


バカップルぶりが窺える写真を撮って何が楽しいのかを彼女は理解していなかったが。
少なくとも、が苛立つことには同感する。


 「で、ムカつくから俺もやろうと思って」

 「ふうん・・・て、えぇ!?そ、それってつまり・・・」

 「愛理、プリクラ撮るぞ」

 「い、嫌よ!そんな事したら、美琴たちに絶対に笑われる!」

 「悪いな、こんな事に付き合わせて」

 「謝るぐらいなら、この手を離しなさいよー!」








 「で?その『バカップル丸出し』なプリクラは、持ってきたのか?」


次の日の放課後。
愛理は昨日のデートについて渋々話すと、興味津々に美琴が訊ねてきた。
人に渡すわけにもいかないプリクラを恐る恐る机の上に出す。
三人は、その写真に飛びついた。


 「うっわー、ラブラブ〜!」

 「や〜らし〜。これのどこが、『何もない』関係なんだよ?」

 「愛理にしては、大胆なことをしたね」

 「う、うっさいわね!黙って見れないわけ!?」


プリクラに写っていた二人の姿は、確かに『バカップル』だった。
に抱きしめられて、照れている愛理。
愛理に抱きしめられて、少し照れている
頬がくっついた状態で、カメラに近づいてる二人。
の不意打ちでキスをした二人。


 「よく許したな、こんなプリクラ撮るの」

 「気付いたら、が勝手にプリントアウトしてたのよ」

 「なになに?愛理ちゃんてば、このキスでノックアウトしちゃったわけ?」

 「そうでもないみたいだよ」

 「え?」

 「ほら、これ」


晶が指す写真は、プリクラの『おまけ』の写真が二枚。
それはどちらもキスをしているだけのように見えた。
何が言いたいのか分からない天満は、首をかしげた。


 「これが、どうかしたわけ?」

 「写真をよーく見たら、分かるよ」


言われて、愛理も一緒になって写真を見る。
そして、晶が何を言いたかったのかが分かると、美琴と愛理は慌てた。


 「さ、沢近、これ二度と学校に持ってくんな!」

 「わわ、分かってるわよ!こんなの、家族にも見せられないもの!」

 「えー?まだ分からないんだけど?」

 「あのね、天満・・・」

 「晶!言わなくていいから!」




に文句を言ってくる、と教室を出て行った彼女の鞄の中。
怒ってはいるものの、プリクラは折れないよう、丁寧に入れられていた。








最後の『おまけ』の写真の二枚。
一枚は、キスをし続けるの手が愛理のお尻に触れていた。
そしてもう一枚は、大胆にも彼女の胸を掴んでいた。















-back stage-

管理:紅さまの64000打キリリクでした。紅さまのみ、お持ち帰り/返品可です。
沢近:私との甘い話ねぇ。これって、甘いのかしら?
管理:・・・え?
沢近:それより、他のキャラが出しゃばり過ぎてない?
管理:んーと、それは出したかっただけなの(苦笑)
沢近:ちょっと!リクエストにちゃんと答えなさいよ!
管理:そしたら、かなりエロい方向行っちゃったんだもん!これで抑えたんだよ!?
沢近:それはアンタの問題でしょ!

2006.09.05

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