砂の隠れ里には、今、新たな恐怖の種となる事件が相次いでいる。



無差別殺人。



下手をすれば週に2人が殺される始末だ。
犯行の時刻は定まってなく、砂の忍は懸命に犯人を絞る事に専念するがなかなか検討がつかない。
里の住民には何時でも何処でも一人きりにならないように注意をかける事ぐらいしかできなかった。



 「静かだな」


昼間にも関わらず、町の中は殺伐としていた。
誰も外へ出ようとはしない中、テマリは呟いた。


 「当たり前だろう。殺人鬼がいつ狙うか分からない状況じゃ」


この騒ぎで彼女を一人にする事はできないと言い、ついてきたは言葉を返した。
テマリ自身は必要ないと感じていたが、周りが口すっぱく言うので仕方なく心得たのだ。
長い付き合いとなるならば共にいても苦に感じないから、了承できたことでもあった。


 「だけど、何故捕まらないのかが不思議だ」

 「主語が抜けてるぞ、テマリ」

 「話の流れ的に分かるだろ」

 「一応、言っておいたんだ」


真面目に話そうとしたテマリをは茶化す。
彼としては、あまり真剣に話したくはない様子だ。


 「可笑しくないか?あの我愛羅も捜査に加わっているのに、犯人が見つからないんだ」

 「変か?結局はあいつの才能も万能じゃないってことだろ」

 「そんなはずはない!今までだって役に立ってきたんだ!」

 「今回にかぎって、役に立たなかったんでしょ」

 「あの我愛羅だぞ!だって知ってるだろ、あいつの強さを!」


に怒鳴っていた事に気づいたテマリは、冷静さを取り戻す為大きく深呼吸をした。


 「最近のあいつは可笑しいんだ」

 「ふうん。どんな風に?」

 「何でか、私を無視することが多いのさ」

 「我愛羅の好物でも食べたのか?」


は相変わらず茶化して話を流そうとする。
しかし、それは逆にテマリにより深く考えさせることとなってしまった。


 「どっちかというと、私に何か隠し事をしているような・・・」

 「そんな事より。今晩はどうする?」


はこれ以上話が深まる前に話を遮った。

テマリとは、幼い頃から夜に家を忍び出て会うことがあった。
初めて二人で家を抜け出した月夜に、テマリがに起こる不思議な現象を知ってからだ。
その現象はあまりにも美しく、テマリは虜となってしまっている。

は彼女にその事を秘密にして欲しいと頼んだ。
その代わり、月夜には再び現象を目にすることを約束した。

この里では、月夜は滅多にない為、何が起ころうとそれを見逃すはずが無い。


 「殺人犯なんて関係ないよ」

 「じゃあ、いつもの所で」


はテマリを家の前まで送ると、帰路をたどっていった。



家に入ると、目の前には先ほどまで話題にでた弟の姿があった。
そういえばこいつにはの秘密を教えてたっけ、とテマリは違うことを考えていた。
また自分は無視されるのだろうとさほど気にしていなかったからだ。
しかし、我愛羅は唐突に話しかけてきた。


 「またあの男か」

 「ああ。がどうかしたのか?」


滅多に我愛羅と会話をする事がないとはいえ、彼はテマリの弟。
彼女は、我愛羅の声に少し冷たさを感じた。
最も、彼は大抵の場合そのような声ではあるが。


 「いや・・・よろしく伝えてくれ」


それだけを伝えると我愛羅は家を出て行った。
今日も彼は犯人探しをするようだ。
テマリは訳が分からないと思いつつ、彼を見送ると夜になるのを待った。







 「、遅いぞ」


待ち合わせ場所である、今では使われていない建物の屋根には腰を下ろした。
その隣にテマリも座った。


 「悪い、ちょっと里の警備が厳重になっててね」

 「厳重?何かあったのか?」

 「またお騒がせなやつが人を殺したみたいだ」


その言葉を聞いてテマリは驚愕した。


 「今度は誰が被害者なんだ?」

 「お婆さんだよ、ここから4軒先の」


近くじゃないかと言い、テマリはこの場にいる事を恐れた。
下手をすれば自分達が殺人鬼と鉢合わせることになるのではないかと。
心配を解消する情報を得ていたは、静かに伝えた。


 「大丈夫。犯人は反対方向に逃げたみたいだから」

 「そ、そうか。なら一安心だな」


ふとテマリがと目を合わせれば、彼女が魅了された現象が彼に起こっていた。


普段は黒い瞳をもつの目の色が、月の明かりを受けて赤と青のオッドアイに変化した。
彼自身、何故このような現象が起こるのかは知らない。
が初めて月夜に出かけた時、テマリに指摘されて知ったのだ。
だから、彼女にはこの事を誰にも言わないよう念を押した。
変な誤解を招いて、自分の身に何か起こるのを防ぐ為に。


 「綺麗か?」


すっかり見入ってしまっているテマリの目を見つめ返し、は質問をした。
テマリは気の抜けた声で綺麗だと言い返した。


 「だけど、。お前、右目が黄色になってるぞ?」

 「え?青色じゃなかったっけ?」


これには本人が驚いた。
テマリに手鏡を借りると、自分の目で確かめる。
確かに青色であるはずの右目が黄色になっていた。

理由が思いつかないテマリは不思議に思ったが、綺麗に超した事は無いので放っておいた。
は心当たりがあるようだが、それを顔にはださなかった。


 「まぁ、今のうちにしっかり目に焼き付けとけよ」


彼の言う意味が分からず、テマリは首をかしげた。


 「しばらく里から離れるんだ」

 「どのくらい?」

 「とりあえず、一ヶ月ほど・・・かな」

 「長いな」

 「目的地が遠いから、仕方ないんだ」

 「出発は?」

 「あした」

 「明日?突然だな」


急な用事なのだろうかと思っていれば、はただ笑っているだけだった。
これ以上自分の我侭につき合わせるのは良くないと感じたテマリは早々に切り上げ、別れを告げた。









がいなくなった1ヶ月の間も殺人鬼は止まる事を知らなかった。
もはや週に5人も殺されるようになっていた。
その中に捜査に加わっていた人達も含まれていることを考えれば、少しは成長したかもしれない。

おかげで犯人は、黄色の瞳を持つ男であると確定することはできた。
しかし、里の中で黄色の瞳を持ちアリバイがない人物はいない為、何も掴めなかった。



テマリはその間、変わらず忍の任務をこなしていた。
変わったことといえば、我愛羅が彼女に頻繁に話しかけるようになったことだ。



月が現れる天気の日、事件はまたしても起こった。
今度は我愛羅も犯人の追跡中に怪我を負ったのだ。

心配をしたテマリはしばらく彼の傍にいようかとも思ったが、に会う事を優先した。
何時も待ち合わせる屋上へと向かえば、は月を背にして立っている。
彼はすでに到着していた。


 「今度は、お前が遅い番だな」


テマリの姿を発見すると、彼は彼女に座るよう即した。
から座れと命じられる時は、膝枕をして欲しい時だと分かっているテマリは正座をした。
その上には頭をゆっくりと眼を瞑って置いた。


 「大分疲れているようだな」

 「かなり」


どれだけ体力を消耗しているのか、の呼吸は荒い。
彼の身を案じつつ、テマリは殺人犯に関して話し始めた。


 「犯人を少し追い込むことができたらしい」

 「へえ。誰なんだ、容疑者は?」

 「黄色の目をした奴だ。でも、誰も該当しない」


自分で言っていて、テマリはふと彼の瞳の色の事を思い出した。
一ヶ月前は右だけ黄色かった目。
今はどうなっているのだろうか?


今日はまだの目を見ていないので、確かめるには聞くしかない。
しかし、テマリは嫌な予感がして彼に聞くことをなかなかできずにいた。



 「気になる?」


目は開けられないまま、が口を開いた。
考えていた事が見透かされていたようだ。



 「今、目を開けてみようか?」



その言葉でテマリはすべてを悟った。
彼が殺人鬼なのだと。

だが、彼女はその問いに答えることができない。
犯人を肯定してしまう可能性に恐怖を抱いた。


 「まだ・・・まだ目を開けないでいてくれ」


たとえ彼が罪の無い人々を殺めたとしても。
彼女の弟まで殺されそうになったとしても。


テマリは、まだこの温もりを手放す気にはなれなかった。






目の色









-back stage-

管:うわぁ、かなりシリアスな夢になっちゃったよ。初めてだ。
テ:かなりすごいお題へのつながり方だな。
管:でしょ、でしょ!ちょっと考えたでしょ?
テ:(考えすぎな気もするが)
管:あ、なんか今余計な事考えてたね。
テ:とりあえず、私の口調をもっと勉強しておけ。

2005.01.05

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