今日は珍しくさんを店の中でなく商店街で見かけた。
可能性の一つ
「いらっしゃい。今日はどのようなご用件で?」
道を歩くさんに勇気をだして声をかけると、まるで店内にいるかのような挨拶。
緊張がほぐれて、私は自然と笑顔を作ることができた。
「こんにちは。珍しいですね、どうしたんですか?」
「ん?ああ、小腹がすいてさ。肉でも買おうかと出てきたんだ」
彼の言葉を聞いて、疑問が浮かぶ。
前に聞いた話では、彼の家はここから遠いはず。
どこで料理をするつもりなのだろう。
「本屋の前で焼こうかな、てね」
「え?」
質問をすれば、また理解しがたい答えが返ってくる。
さんが料理できるのかどうか不安になってきた。
「あの、さん。料理したことあります?」
「無い」
即答されるとますます不安になる。
私は本屋の奥に調理場があることを思い出して、自分が調理することを進んでやる事にした。
「私が作りますから、本屋へ行ってもいいですか?」
「え、作ってくれるの!助かるよ」
嬉しさのあまりか急にさんに抱きしめられた。
顔が火照るのを自分でも分かる。
おまけに、ここは商店街。
通行人の視線を痛いほど感じて、ますます恥かしかった。
そんな私の気持ちも知らずに、さんは離れると八百屋へと向かった。
「まずは野菜がいるかな?」
「お肉を焼くんじゃないんですか?」
確かに調味料がないだろうから、そろえる必要はある。
だけど、野菜を買う必要はないはず。
「どうせ作ってくれるんだったら、ハンバーグを作って欲しいんだ」
「はぁ・・・」
さん、ハンバーグが好きなのかな。
だったら、他にも色々と買いに行かなければならない。
もしかして、これはデートなのかもしれない。
その事に気付くと、少しばかり胸が躍った。
さんの店に戻ると、私は早速調理を始めた。
材料が多めにあるから、姉さんの分もこねておいた。
これをさっき買ってもらったタッパーに詰めれば、夕飯の心配はしなくていいかな。
ハンバーグをじっくり焼いている間、さんはまだかまだかと座って待っていた。
「できました」
普段はレジが置いてあるカウンターが、今は料理で並んでいる。
さんの前に皿を置くと、彼はフォークとナイフを手に握った。
「美味しそうだなぁ。八雲ちゃん、良いお嫁さんになれるよ」
用意された私の席に腰を下ろすと、不意打ちをくらってしまった。
丁寧に挨拶をしてハンバーグを食べるさんの顔を見てみたけど、何も読み取れない。
「うん、美味しい。八雲ちゃん、俺のお嫁さんになってよ」
思わず口にしたハンバーグを喉につまらせてしまう。
苦しそうにした私の背をさんは心配して摩ってくれた。
「さん。その、冗談でもそういう事は言わないで下さい」
自分で言っていて何だか悲しいけど、期待をもたせるような言葉はかけないで欲しい。
・・・あれ?今のは、まるで私が期待したいような言い方な気がする。
「冗談か。本気で言ったつもりだったんだけどな」
今度は持っていたフォークとナイフを落とした。
拾おうにも頭の中が混乱して、私は赤くなる頬に手を添えることしかできない。
「まぁ、その話は置いといて。また今度、八雲ちゃんの手料理食べさせてよ」
ニッコリと笑うさんを見て、断りきれなくなってしまうのは何故だろう。
小さく頷くと、彼はもう食べ終わったのか食器を片付けに行った。
今は私しかいない店内をじっくりと見わたしてみる。
さんとゆっくり思うがままに生きていく人生というのも悪くないかも。
なんて事を思ってしまった私は、その考えから離れる為に自分の食器を片付けることにした。
-back stage-
管理:大変お待たせいたしました、八雲続編夢です。
八雲:本当に随分と待たせてしまって、すみませんでした。
管理:はぁ。八雲が可愛いから許すけど、彼女ほど甘い話が書けない人物はいないと思う。
八雲:え、ご、ごめんなさい。
管理:いやいや、だから責めてないって。私は、ほのぼのが一番好きだし。
八雲:そうですか。
管理:・・・最近、なんか食べ物ネタが多い気がしてきたな。
2005.01.07
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