it's a sunny day
ぽかぽかと太陽の光が、暖かい。
レジの横で座っている所に、ちょうど光が差し込む。
私は、いつのまにか眠っていたみたいだ。
手にしていたはずの本が、カウンターに置かれている。
そして、私の体の上には、毛布がかけられていた。
こんな事をしてくれるのは、一人しかいない。
「・・・さん?」
まだ意識がはっきりしない頭を起こして、その人の名を呼んだ。
返事は、ない。
でも、本を一枚ずつめくる音を耳にした。
「さん・・・?」
体を起こして、見えないさんの姿を探す。
小さな店内では、簡単に見つけることができた。
「あ、おはよう。八雲ちゃん」
「おはようございます。あの・・・毛布、すみませんでした」
「あれ、迷惑だった?」
「いいえ!」
「じゃあ、謝る必要は無いって」
いつものように優しいさんの手元には、開かれた本。
どんな本を読んでいるのか気にしていると、さんは私に表紙を見せてくれた。
『御手洗の事件』
真っ白なカバーに小さく黒い文字で書かれたタイトル。
推理小説なのかもしれない。
「『みたらいの事件』ですか。」
「違う、違う。『おてあらいの事件』」
「は?」
刑事か探偵の名前かと思いきや、違ったようだ。
一体、どんな話なのかと不思議に思っていると、店内に馴染みのある声が響いた。
「やっくもー!お姉ちゃんだよー!」
そういえば、姉さんには、今日ここに来ることを伝えていた。
その事を思い出しながらも、私は姉さんに用事を聞いた。
「あのね、今日はちょーっと用事があるから、晩御飯いらないことを伝えに来たの」
(烏丸くんが、夜に商店街へ行くという情報が入ったんだよねー。)
姉さんの心の声が、丸見え。
商店街に行くだけなら、問題はないと思うけど・・・
「それだったら、携帯に連絡してくれれば、良かったのに」
「へ?・・・嫌だなぁ、お姉ちゃんは、八雲の顔が見たかったの!」
(そ、そうだった!電話して一言言えば良かっただけだったじゃない、私の馬鹿!)
なんだか一生懸命誤魔化そうとしているし、つっこまない方がいいかな。
そう思っていたら、さんが姉さんを不思議そうに見つめていた。
そういえば、まだ挨拶をしてなかった。
「あ、さん。私の姉です。姉さん、この人はここの店長さん」
「はじめまして、塚本天満です。いつも八雲がお世話になってます」
「はじめまして。この本屋の店長をやってるです。俺が、いつも八雲ちゃんに迷惑かけてますよ」
一通りの挨拶を終えると、姉さんはさんが持っていた本に興味を示した。
「それ!『おてあらいの事件』だ!」
「知ってるの?」
「もちろん!」
(烏丸君が、この前読んでたんだよね。)
姉さんが本に認識があるのは、珍しいことかと思えば、また烏丸さん絡み。
さんには聞きにくいから、私は姉さんに本の内容を聞いてみた。
「えっと〜。確か、御手洗いで起こった色々な事件を詰め合わせた短編集だったはず」
「よく知ってるね。読んだことは?」
「いやー、無いんですよ。怖い話ってのは、あまり得意じゃないんで」
「そう?これ、ホラー以外にもサスペンスや恋愛、コメディ、SFもあるよ」
・・・本当に、それってどんな本なんですか?
二人の会話に全くついていけないのも、寂しく思えた。
姉さんは、さんの耳元で何かを伝えると、私に振り返った。
「じゃあ、八雲、そういう事でよろしく!」
(私ってば、本当にイイお姉さんだよね。)
嵐のようにやって来ては、帰っていった姉さんの姿を見送る。
どうしてか、背を向けたさんの肩が震えていた。
「どうかしたんですか?」
「え?ああ・・・うーん・・・秘密?」
「もしかして、姉さんが無茶な事を言いました?」
去り際に読み取れた心の声。
あれは、絶対に姉さんが何かをやらかした。
心配していると、さんは私の髪の毛に触れた。
「言っても良い?」
そう言って微笑むさんの顔にうっとりしてしまって、無意識に縦に首を振った。
「『八雲を泣かせることがあれば、離婚してもらいます』だってさ」
チュッと音をたてて、唇が重なった。
呆然と立ちすくむ私を放っておいて、さんは本を持ったままカウンターへ戻る。
「離婚って言ったって、結婚もしてないのにね」
本を開いても姉さんの言葉が離れないのか、さんの笑い声が店内に広がる。
その雰囲気に自分の心が落ち着くのを感じて、私は幸せ者だなと心から思った。
-back stage-
管理:今回は、家族にも認めてもらうために天満が登場。
八雲:微妙にギャグが入りましたね。
管理:ハチャメチャなのが天満の良い所だからね。一応、様も似た性格の設定だし。
八雲:で、『御手洗の事件』は、どんな本なんですか?
管理:だから、おてあらいで起こった事件を書いた短編集だよ。ホラー・ミステリー・青春何でもあり。
八雲:(絶対に変だ、そんな本)
2006.03.22
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