逢えない時間
最近、調子が悪いように思える。
美鶴は、ため息を吐いた。
気づけば、会議中だというのに、居ないの姿を探していたり。
勉強に身が入らなくて、随分と前にと笑いあったことを思い出したり。
私らしくもないな。
自嘲的な笑みを浮かべていると、コップが手元に置かれた。
そう、今は生徒会室で書類の整理をしている途中であった。
淹れてくれた伏見が心配そうに美鶴の顔を覗き込む。
「ここのところ、元気が無いみたいですけど、大丈夫ですか?」
一年の彼女にまで余計な心配をかけてしまった。
自分なりに頑張った笑みで平気だと返したが、そうでないことが伝わったようだ。
「やっぱり、先輩がいないと寂しいでしょうね」
風邪をひいて寝込んでいるは、もう四日ほど学園に来ていない。
「?何故、そこで彼の名前が出てくるんだ?」
「だって、先輩、いつも会長の傍にいるじゃないですか」
そのことを指摘されて、初めて美鶴は気づくことができた。
が隣にいることが当たり前すぎて、彼女は彼に出会う前、どのように過ごしていたか思い出せない。
よほど、との時間が心地良かったのだろう。
それを思うと、自然と彼女の指は唇に触れる。
風邪で意識が朦朧としていたが、キスした場所だった。
胸が締め付けられる。
しかし、それが何故かまでは彼女は分からなかった。
すると、先日生徒会に入ったばかりの少年がプリントを差し出してきた。
彼は、美鶴の仲間でもある。
「小田桐副会長が、先輩に渡して欲しいそうです」
「どうして、私に?」
「皆、先輩の家を知らないんですよ」
実は、小田桐も彼も美鶴の背を押しているとは、本人は知るよしも無い。
に会う理由を受け取った彼女は、帰る支度を始めた。
インターホンを鳴らすだけなのに、どうしてここまで時間がかかるのか。
美鶴は可笑しく思いながらも、かれこれ十分ほど立ち尽くしていた。
深呼吸をして、ようやく押す。
彼の親が出てきても、失礼の無いように心構えた。
しかし、現れたのは、本人だった。
「あれ、美鶴。何してんの?」
思わず持っていた鞄で顔を隠した彼女は、口ごもった。
「な、なんでもない。それより、起きていて平気なのか?」
「大分楽になったよ。今は、親が出かけてるし」
弱々しいが、辛そうではない様子に美鶴は胸をなでおろす。
同時に、胸のうちが暖かく感じた。
の顔を見れば見るほど、その気持ちが湧き上がる。
「まあ、上がって。お茶淹れるから」
「病人に淹れさせるわけにはいかない。私が淹れよう」
「でも、一応お客さんだし」
「四日も学校を休んでるようなやつに無理をさせる気は無い」
頑なに自分がやるというので、は美鶴に任せることにした。
キッチンに立つ彼女の傍で、どこに何があるかを教える。
一通り準備が整い、あとは紅茶ができあがるまでの間に、美鶴は用件を伝えた。
「小田桐が、に渡して欲しいと言っていた」
「ふーん、あいつが?・・・げっ、今度のテスト範囲・・・」
「感謝しておくんだぞ。彼が人のために動くことはあるが、のためは無かっただろう」
微笑した彼女をがじっと見つめる。
「もしかして、これが無かったら俺に会いに来てくれなかった?」
悪びれも無く肯定した美鶴に、少し、いや、かなり心が傷つく。
彼女にって、は眼中に無い存在であることが悲しかった。
「寝込んでいるだろうに、見舞いに来たら色々と気遣って大変だろう?」
「俺を心配して、会いに来てくれたって良いのに」
「そ、それは・・・その・・・」
保健室での件もあって、美鶴は顔を会わせ辛かった。
だが、目の前で捨てられた小動物のような目をする彼に見つめられ、顔がさらに火照る。
逃げるように、目を逸らしながら彼女は言った。
「すまない。お詫びと言ってはなんだが、何か私にして欲しいことはあるか?」
その言葉に、は反応を示した。
「マジで?何でも?」
急に元気になった彼に驚きながらも、頷く。
彼の今までのセクハラ行為を彼女は忘れているようだった。
「じゃ、俺が良いって言うまで、目を瞑って」
そんな簡単なことで良いのかと、拍子抜けする。
言われたとおり目を瞑れば、口が塞がれた。
何事かと目を開けば、楽しそうなが彼女を見ている。
抗議をしようとすれば、隙間から生暖かい感触が口の中に渡った。
まだは熱がひいていないのか、舌をやけに感じる。
混乱しているのと、思うように呼吸ができのいことで、美鶴は頭がくらくらしてきた。
冷たい風が舌に触れていることに気づいた時には、は濃厚な味がする紅茶を口にしていた。
「駄目じゃん、言うこと聞かなくちゃ」
誰のせいだ、と文句を言おうにも声が出ない。
それは息が切れるせいか、久しぶりに感じたの体温に酔いしれていたのか。
未だに美鶴は理解していなかったが、それを嫌だと思わないことだけは確かだった。
-back stage-
管理:お題91と57の主人公で書きました。先輩、可愛いー!
美鶴:な!?そ、そんなこと・・・!
管理:てなわけで、美鶴は、きっと恋愛に疎いと思う。
美鶴:そんなことは・・・
管理:そりゃゲームじゃ主人公とラブラブになれるけど?これは違うもん。
美鶴:どう違うというのだ。
管理:昔から一緒にいるから、そういう感情の変化に気づけないのだ。
2007.08.05
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