生徒会の集まりが無い時でも、美鶴はよく生徒会室にいることが多かった。
人に任せておけば良い雑用までも自分でやろうとするのだ。
今日も、そのような雑用をこなしていく。

そこにクラスメートが現れた。
役員でもないその人物が美鶴を訪ねる理由は一つしかない。

またか、と美鶴は肩をすくめると教室へ一緒に向かった。




傍に、いるよ




コツ、コツ。

ブーツの踵が廊下を渡る音。
意識が戻ったは、体勢を崩さないまま、その音に耳を傾けた。
それは次第に自分へと近づいている。


 「起きてるんだろ、


美鶴の声で、やっとは頭を上げる。
掃除中のせいで、彼は自分だけが大きい空間に取り残されるような錯覚に陥った。


 「あれ、もう放課後?」

 「そうだ。掃除の邪魔になるから、生徒会室に行くぞ」


はーい、と幼稚園児みたいに返事をしたは、美鶴の後を追う。
その光景にクラスメートは呆れていた。


 「叩いたって起きやしないのに、桐条さんが近づくだけで起きるんだから凄いわ」

 「愛の力は偉大、てやつですかね?」


その日常は、誰もが変わらぬと、その時は信じていた。





異変があったのは、次の週であった。
美鶴がまたクラスメートに同じ理由で呼び出され、を起こしに行く。
しかし、彼は美鶴が目の前に立っていても頭を上げなかった。


 「?」


何度も名を呼ぶが、反応は無い。
息をしているのは体の揺れを見れば分かった。
もしや、と美鶴は彼の額に手を添える。


 「熱があるな。誰か、保健室にを運んでやってくれ」


そう声をかけると、ぴくりとも動かなかったの手が伸びた。
自力で行くというのだろうかと見守る彼女の腕を握った。


 「ムカつく」

 「は?」


立ち上がったが、互いの唇を重ねる。
突然のことで、美鶴は呆然と立ち尽くしていた。
虚ろな目をした彼はクラスメートに目を向ける。


 「美鶴に触るな」


それだけを伝えると、彼は倒れた。








のセクハラ行為に馴れた美鶴は、どうせまた冗談だろうと、先程の事を忘れようとした。
しかし、なかなか頭から離れない。
彼の容態を気にして、保健室で横たわるの傍についているからだろうか。


 「どうした、美鶴?」


寝ろと言っているのに、眠らないが顔を覗く。
至近距離に耐えられなくなって、美鶴は立ち上がった。


 「何でもない!起きていられるほど元気なら、私は帰るぞ」

 「あ、眩暈が・・・」


クサイ演技でが美鶴を引き止める。
彼女以外ならば、放っておいたことだろう。


 「だから寝ろと言ったんだ。無理は良くない」

 「でも、眠れない・・・一緒に寝ない、美鶴?」

 「それで風邪をうつされたら困るんだが」

 「それが一番早く風邪を治せるんだけど」


は笑っているが、どこかしら寂しそうだ。
不思議に思った美鶴が問いただすと、すんなり白状した。


 「さっき、夢を見たんだよ。美鶴が離れちゃう夢を」

 「人は生きている限り、別れもある。そういう事もありえるじゃないか」

 「いや、そうなんだけど。なんていうのかな」


少し唸ってから、はため息を吐いた。


 「もう、いいや。とりあえず、今は俺の傍にいてくれないか?」

 「なんだ、まるで子供みたいだな。風邪をひいて寂しくなったのか」

 「・・・てことは、美鶴が母親代わり?」


言った次の瞬間には、彼は美鶴をベッドへ押し倒した。
何をするかと罵倒する前に、が彼女の胸の上に頭を置いて寝転がる。
相手が病人である事を思い出した美鶴は、動くことができなかった。

もう諦めるしかない。
彼女は欠伸をした。


 「心臓がバクバク言ってる」

 「誰のせいだと思ってる・・・一時間だけだぞ」

 「ん、サンキュ」













-back stage-

管理:一応、91「お邪魔虫」の主人公です。
美鶴:別にして読むことも可能だな。
管理:いやぁ、実は続編をと頼まれたけど、あれの続きといえば・・・ねえ?
美鶴:どうした、にやけた顔になって?
管理:裏行きになっちゃうなぁと思いまして。
美鶴:!!?
管理:とりあえず、これで抑えておきました。
美鶴:た、助かった・・・

2006.03.27

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