死神は、人間と仲良くするべきではない。
そんなことは分かっていたはずだった。
だが、何らかの感情が芽生えてしまうほど、私はその人間と接してしまっていた。
「あ、ルキアさーん!」
虚退治の帰り、住宅街の屋根を移動していれば声がかかる。
この一帯で私に声をかけようとする者は一人しかいなかった。
「起きていて大丈夫なのか、?」
開かれた窓から、部屋に入る。
は相変わらずベッドから離れられずにいた。
そのベッドの上に座ると、が枕元の机に置いてあった菓子を差し出してくれた。
「うん、平気。最近は発作もなくて、楽なんだよ」
確かに、顔色は悪くない。
詳しい病名は知らないが、が元気なのは良いことだと思えた。
人間だから仕方ないとはいえ、まだ若い彼には死というものにあまり触れさせたくはない。
「いつまでその元気が持つかが問題だな」
「痛いところついてくるなぁ、ルキアさんは。ごもっともだけど」
苦笑するも、は楽しそうにしている。
その様子を見ることで安心してしまう己がいたことをもっと早く気づくべきだった。
「あ、それでね、実は明後日に外出許可を得られたんだ」
かなり元気になった証でしょ、と嬉しそうに教えてくれる。
微妙な気持ちを抱えながらも良かったな、と答えるとははにかんだ笑みを浮かべた。
「ねえ、もし良かったらさ。ルキアさん、一緒にその日に遊ばない?」
「一般人には姿が見えないのに?」
「うん。僕の唯一の友達なんだ、ルキアさんは。駄目かな?」
突然の誘いのため、断られる可能性が高いと考えたのか。
それとも、単なる性格の問題なのか。
どちらにせよ、私には断る理由が見つからなかった。
「急に仕事で行かなくてはならなくなっても、怒らないのなら」
「ありがとう、ルキアさん」
明後日、この部屋まで迎えに来てやることを約束して、私は一時別れた。
「いい天気になって良かったな、」
何を言えばいいのか分からなくて、無難なことを口にしてしまった。
外出許可が出たからといって、は遠出する気が無かったようだ。
黙々と歩き、が辿り着いたのは見晴らしの良い丘の上だった。
「風って、こんなにも気持ちいいものなんだね」
背筋を伸ばして深呼吸をすると、そこにあった長椅子に座り込む。
「部屋の中からでも風くらいは感じていただろう」
「そうだけど、何かが違うんだよ。今は解放感もあるからかな」
「解放感か」
「そう、解放感」
本人は気づいているのだろうか。
初めて会った日と今では私達の関係が変わってしまっていることを。
「あ、お腹空かない?ルキアさんの食べたい物、僕が買ってくるよ」
「どうやって買うつもりだ?」
「お金のことなら心配しないでも良いから、安心して」
そういう事ではない。
「一般人には見えぬ姿で、どうやって買い物をするのかと聞いている」
の笑みが消える。
「見えないって・・・僕のことが?」
たちが悪い。
に死の認識は無かったようだ。
胸の奥が痛んだ。
「ああ。貴様は、もう死んでいる。幽霊としてこの世にいるだけだ」
「僕が、幽霊?」
私の言葉を繰り返して、は苦悩している。
いつ何が起きても良いように、私は斬魄刀の柄に手を添えた。
「そうなんだ・・・幽霊だから、こんなに体が軽いんだね」
悲しげに笑うを見ていられなくなり、精一杯の笑顔を見せる。
「安心しろ。ちゃんと成仏させてやる」
「・・・それ、慰めになってないよ?ルキアさん」
気遣っていたことを悟ったのか、は再び笑ってくれた。
その明るさは、いつのまにか私にとってなくてはならないものになっていた。
「準備は、いいか?」
刀を持ち直し、じっと私の目を見つめてくるに問う。
「ありがとう、ルキアさん。僕の友達になってくれて」
最後までその微笑みを絶やさず、消えていく。
の姿が見えなくなっても、すぐにはその場から離れられず、しばらく呆けていた。
「人間と仲良くなった覚えはない」
ただ、塵が目に入っただけだ。
そう自分に言い聞かせ、私はその丘から去った。
死神
- back stage -
管理:さて、問題です。主人公は何時死んだでしょうか!
朽木:複数の可能性があるな。約束した日までに死んでいたか。
管理:約束した時には死んでいたか。
朽木:他にも分かりにくく、その要素をチラつかせているらしい。
管理:まあ、いつ死んだかは重要じゃありませんよ。そういう書き方にしたかっただけだし。
朽木:それなら、何が書きたかったんだ?
管理:やけにドライなルキアさん。
2009.01.07
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