カレンは、かかってきた電話から漏れる音を一つも逃すまいと集中していた。
会話をしているディートハルトは、隣で携帯に密着する彼女を鬱陶しそうにする。
そこまでして彼の声を聞きたいのか、と呆れさえもしていた。
『では、また電話する』
電話の相手が別れを告げる。
その言葉を聞いたカレンは、持ち主の手から携帯を奪った。
「待って、ゼロ!お願いがあるの!」
切羽詰った様子の彼女に、相手は耳を傾けた。
剣(つるぎ)
「これで、大体整ったな。あとは・・・」
電話を切った後、ゼロことルルーシュは忙しくしていた。
その慌ただしさに、C.C.が首を傾げる。
「何をしているんだ?」
ベッドの上で届いたピザを口にしながら、問う。
ルルーシュも一切れもらおうとすれば、彼の手が叩かれた。
仕方なく、彼はパソコンで何かを調べ始める。
「カレンが、ゼロの騎士となる儀式を行いたいと頼んできた」
「騎士の儀式?」
「恐らく、スザクの就任式を見て羨ましく思ったんだろうな」
ゼロの親衛隊隊長に任命され、傍に居ることを許してくれたゼロ。
彼が彼女を頼りとしてくれたことが、カレンは嬉しかった。
しかし、スザクのような形をとって、他人に自分の存在を見せつけたい気持ちもあるのだろう。
自分がどれほど、ゼロを慕って彼の下に就いているのかを。
そして、ゼロがどれほどカレンを頼りにしているのかを。
「お前は、彼女の願いを叶えると言うのか」
「たまには、部下の我侭を聞いてやるのも、上の務めだ」
「彼女がいなくなれば、作戦に支障が出るからだろう」
「それも、ある」
ベッドに体を向けて、ルルーシュは微笑んだ。
「余興もなければ、戦争なんてやってられないだろう?」
何をもって余興と言えるのか分からないC.C.に、彼はそれ以上の説明をしなかった。
「なるほど。こういう事か」
ルルーシュが急遽ギアスを使って借りた、ある貴族の別荘。
そのダンスホールで、団員達は就任式の準備をしていた。
ある程度の物以外は自分達で用意する、という条件でルルーシュは許可したのだ。
余興の意味が分かったC.C.も今は手伝わされていて、赤い絨毯を団員と共に敷いていた。
「おい、こっちに釘を持ってきてくれ」
「うーん、もっと上につけた方がいいよ」
「馬鹿!何やってんだ、お前!」
飛び回る声は、どれも楽しそうだ。
黒の騎士団に所属する者は、大抵が成人を越えている。
このような馬鹿騒ぎが久しい人の方が多い。
カレンが主役とはいえ、こうして他人と共同作業をすることを楽しんでいた。
ここのところ、ブリタニア軍と戦う事が頻繁にあったので、良い気分転換になっていた。
「順調に進んでいるようだな」
「ああ、ゼロ。カレンなら、着替え中だ」
扇が手の離せない皆の代わりに伝える。
そうか、とゼロが答える前に、今日の主役が悲鳴を上げた。
「嫌だ!スカートを履いて皆の前に出るなんて!」
「えー。可愛いわよ、すごく?」
「本当、似合ってるじゃない」
カレンのイメージカラーとも言える、深紅のジャケットにタイトなミニスカート。
彼女の衣装まで用意する時間が無かった為、服は女子団員の協力によって、それらしい物を用意した。
髪の毛はストレートにして、向日葵のヘアピンをつけている。
嫌だと言ってる彼女を着飾った団員は人前に出す。
ふくれっ面なカレンとは裏腹に、作業を行っていた仲間達は手を止めた。
学園でのカレンを知らない人がほとんどである。
綺麗になった彼女を見ずにはいられなかった。
「ねえ、ゼロ。貴方も素敵だと思わない?」
「ちょ、ちょっと!何を聞いてるのよ!」
その場にいる全員の気持ちをゼロは代弁した。
「ああ。似合ってるな、カレン。普段とは違った魅力を感じる」
褒めちぎられたカレンは、頬を赤く染める。
しかし、ゼロは異議を唱えた。
「だが、これでは、儀式で跪くことができないと思うが?」
「そ、そうなんです、だから、私は嫌だって言ってるんです!」
彼も自分と同じ考えを持っていてくれた。
それだけで、カレンは幸せに思えた。
さすがにゼロにそう言われてしまえば、仕方ない。
団員達は、からかう為に持ってきたスカートではなく、初めから用意していたズボンを穿かせる事にした。
「カレン・シュタットフェルト、前へ」
「はい」
いつもと変わらぬ姿のゼロを前に、カレンが跪く。
剣をもらったゼロが口にする形式的な言葉を全て聞き入れ、彼女は約束をした。
「カレン・シュタットフェルト、ここに貴方への変わらぬ忠誠を誓います」
ゼロは彼女から受け取った剣を左肩と右肩に剣を一回ずつ触れさせ、カレンへ返す。
その様子を団員達が見守った。
信頼の証として、剣をカレンに与えたゼロ。
そのゼロの心に答えるべく、剣に忠誠を誓ったカレン。
「頼りにしているぞ、カレン」
その言葉を胸に、カレンはこれからも励もうと力が湧いてくる。
そして、いつか彼に言ってもらえるよう、努力を怠らないことを誓った。
全てが成功に終わり、お前が傍に居て良かった、と言われるようになるのを夢見て。
仲間の自分に送る拍手の音が耳に入る。
その優越感に浸っていると、玉城が場違いな歓声を上げた。
「よっしゃ、今夜は、とことん飲むぜ!」
いいよな、ゼロ?
祝い事なのだから、経費を使っても平気だと信じてる玉城が聞く。
「自分の給料で賄えるのならば、好きにすれば良い」
この一言で飲む気が失せた玉城が諦めた。
そうなることを予想していたゼロは、指を鳴らした。
何処からか、布に覆われていたワイン数十本が現れる。
「これぐらいあれば、十分だろう」
用意したワイングラスに赤ワインを注ぎ、カレンへ手渡す。
「今夜の主役が飲んだら、好きにやってくれ」
カレンが一口飲むと、周りはグラスを回し始める。
玉城はボトルから直接飲むという行為をしていた。
「普通、こういう時はビールを飲むもんなんだけどな」
何かと文句をつける彼の言うことを無視し、他は束の間の休息を楽しんだ。
次は、何時このような馬鹿騒ぎができるかを不安に思いながらも。