「安心しろ、の分も用意してある」
翼に言われて、違うクラスであるはずの私までウェイトレス姿になった。
at your service
そう、今日は文化祭。
B6の皆が所属するClassXでは喫茶店を催していた。
一と悠里ねぇに頼まれて翼を説得したお礼にと、店が開く前にB6がウェイター姿を見せてくれた。
……今のは的確な説明でないことは、自分でも分かってる。
ウェイトレス姿が1人いるし、翼はお礼のために見せてるわけじゃない。
瞬とキヨだって参加する気はなかったらしいし、瑞希はされるがままなだけ。
本当に、一だけが純粋な気持ちで見せてくれた。
で、そんな私に、翼が悟郎と同じデザインの服を渡してきたのである。
悟郎にせがまれて仕方なく作ったはいいけど、それだと男が女装するために協力していることになる。
そんな風に捉えたくなくて、女である私にも作ればいいと勝手に用意したらしい。
「どう……かな?」
そんな私は、メイド服なんてそう着れるものじゃないから、まんざらでもない。
背筋を伸ばして、手を添えながら小さく会釈をして挨拶をしてみた。
「ご主人様、何なりとお申しつけ下さいませ」
ロングスカートじゃないから、最近流行のメイドタイプの方が良かったかもしれない。
だけど、この学校に来ているのは、皆お金持ちの家の子だ。
多分、伝統的な振る舞い方が一番受けがいいと思う。
「ふ、ふん……なかなか似合ってるではないか」
「メイドって……いいかもしんねぇ」
「確かに……こういうメイドなら金を出してもいいな」
翼と一と瞬が何やら違う世界へと飛びだってる。
よく分からないでいると、悟郎とキヨが飛びついてきた。
「もう可愛すぎるよ、!えへへ、ゴロちゃん達、姉妹みたい〜!」
「何なりとって言われると、何か言っちまいたくなるなァ?」
「こら、清春君!ちゃんに悪戯しようとしたり、させたりするのは駄目だからね!」
「……うん……、可愛い」
悠里ねぇの小言から逃げるキヨが離れると、瑞希が褒めてくれる。
皆が優しいから、私はつい嬉しくなってしまう。
「じゃあ、はゴロちゃんと一緒に、これから学校の中を歩き回ろうね〜!」
悟郎に腕を引っ張られて、私はこの格好のまま外へ連れ出されてしまった。
そこまでは、良しとしよう。
というより、良しとするしかないのよ、勝手に動き回る悟郎が相手だと。
だけど、その後、私をそのまま放って行ってしまったのは許せない。
「日頃の鬱憤……お前で晴らさせてもらう」
何故なら、今、私は最大の危機に陥っているから!
どうして運悪く、B6を妬むClassAの生徒のグループに会っちゃったんだろう、私。
お祭り騒ぎで盛り上がってる生徒達は、こんなことが起こっているとは思ってもいない。
誰もこの廊下を通らないのが、それを説明していた。
まさに、ピンチ。絶体絶命。えっと、他にこの状況を説明する言葉はあったかな?
とにかく、B6への不満をか弱い乙女にぶつけるこの人達と、どう戦えばいいのだろう。
前に似たようなことがあった時は、怖がってるうちにB6の皆が助けてくれたから分からない。
冷静になろうとしてるけど、なりきれてない自分がいることを痛感する。
相手の手が伸びてきて、もうだめだと思った時、救世主が現れた。
救世主が二言ほど相手に伝えれば、そのグループは去っていった。
私がお礼を言おうとしたら、無言で手を引っ張られる。
行き着いたのは、今日は誰も寄り付くことがないだろう、資料室。
そこで、ようやく喋ってくれた。
「どうして、助けを求めなかった!」
「……油断、しすぎ……」
「まったく、何からつっこむべきなんだか……」
「何やってんだよ、おまえ!そんな格好で一人歩き回ってさ!」
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